『純喫茶「一服堂」の四季』(東川篤哉)



毎度毎度東川篤哉にはやられてしまいます。どうしてもベタなギャグと軽い文章のため誤解されがちなのですが、東川作品はガチガチの本格ミステリなんですよね。
使い古されたネタをこのように展開させるのか! と驚きと喜びに満ちた読後感なのでした。
鎌倉にひっそりと佇む時間が止まったかのような喫茶店。そこの店主ヨリ子は極度の人見知りだが、猟奇事件の推理を始めた途端に態度が豹変する。この設定もあれこれの寄せ集めのような感じもあるのですが、そんなことは些末なことなのです。そこには十字架磔死体や頭部と手首が切り落とされた死体など猟奇に彩られた事件と、何故どうやって誰がという魅力的な謎があるのです。それがテンポよい会話で進められギャグの中にも伏線が忍ばされる。実に構成が美しいのです。
謎や伏線自体は割とわかりやすく示されてもいます。しかしそれは読んでいる最中に引っ掛かりを感じた部分にきちんと意味があるということ。これまた美しいミステリの要素ですね。そして最後に仕掛けられたトリック。隅々まで楽しませてくれます。
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『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー、池内紀・訳)



名作とは何度読んでも面白い作品である。しかも新訳となると、同じなのだけど違う味わいを楽しむことができるという喜びがあります。もちろん前の方がよかったということもあるでしょう。新しい方が味わいやすいということもあるでしょう。どちらもそれぞれの味わいを楽しむことができる。そんなものもあるでしょう。
数多くある『飛ぶ教室』の中でも、読みやすさと味わい深さは随一かも知れません。新しいのだけれどクラシカルでもある。それは少し古めかしい言葉遣いが為されているから感じるものなのかも知れません。それが作品世界に融け込み、世界の入口を広げてくれます。
ケストナーの作品の中でも一番好きなものであり、子どもと接する大人の必読の書だという想いは、この何度目かの再読で益々大きく感じられました。(因みに『窓ぎわのトットちゃん』も必読の書だと思っています。)子どもを子ども扱いはせず、かと言って見離しもせず。きちんとした「大人の目」で書かれた子どもの物語なのでしょう。子どもたちが活き活きと描かれているからこそ、大人の役割を強く感じる。そこが素敵なのです。

『野川』(長野まゆみ)



長野まゆみ式正統派青春小説といった感じでしょうか。
両親の離婚と父の事業の失敗のために中学校を転校した主人公。その中学校の立地から付近の地形に興味を持ち、少し変わった先輩や先生に誘われて(騙されて?)新聞部の新たな部長となる。その新聞部では伝書鳩を飼育していた。
地形や地学の用語がさらさらと出てきます。ああ「ブラタモリ」で説明していたなあと頭の中で地形を思い描くのですが、はたしてきちんと再現できているのやら。それでも頭の中で野川が流れ土地が隆起し形作られて来るのです。
文章で表されているものに血肉を与え形を成すもの、それが経験であり知識なのでしょう。そして知識というものは人の中に体積していくものなのだなと実感させられました。
それは作中で語られる蛍の逸話にも表れています。他人の経験を聞くことで我がものとすること。それは何故小説を読むのかという答のひとつではないでしょうか。自分ひとりでは経験し得ないものを疑似体験し我がものとして肥やしとする。直接的に実用のためになることは少ないでしょうが、そこから芽を出すものもあるでしょうし、発芽を促すものとなるものもあるでしょう。それが小説の(物語の)力なのでしょう。

『川の名前』(川端裕人)



夏休みの自由研究に野生のペンギンの観察をする。それだけ聞くと荒唐無稽ですが、そこにリアリティという説得力を持って来るのがこの作者のすごいところでしょうか。
夏と少年の物語。少年たちはそれぞれ家庭の事情があり、越えるべきものを抱えている。重苦しくなく軽やかに、それぞれの挫折と成長が書かれています。子どもだからできないこと、子どもだからこそできること。大人の関わりは干渉となり手助けとなり。はじめ小学5年生という設定はこの物語のテーマに対して幼いのではないかと思いましたが、その幼さがもつ無茶が起爆剤として素敵に作用していました。
物語の内容についてはここでは書きません。何故なら読んで欲しいから。作品のタイトル『川の名前』は実にこの物語を表わす言葉なのですが、なかなか手に取ってもらいにくいだろうなとも思います。少年たちの煌めきに共鳴できる、そんな作品だから大人にも子どもたちにも読んで欲しい一冊です。

「フシギ伝染』(板橋雅弘)



ある小学校のクラスメイト8人が遭遇するフシギ。
ひとつひとつの話は短いので物足りなさというか言い足らない部分も感じたのですが、読み進めているうちにその語られない部分にフシギを膨らます部分もあるような気にもなってきました。
魔法のヤカンが叶えてくれた望みとは? UFOに出逢った少年、空を飛べたらどこへ行く? スプーンを曲げる超能力、などなど子どもたちの日常のすぐ横に忍び寄るフシギ。怖くもあり楽しくもあるフシギを味わえます。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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