『ナイトメア・アカデミー 異界からの招待状』(ディーン・ローリー、池内恵・訳)

ナイトメア・アカデミー 異界からの招待状
ナイトメア・アカデミー 異界からの招待状

チャーリーが悪夢を見ると悪いことが起こる。幼い頃より繰り返し起こる悲劇。そのためチャーリーは学校にも行けず家で孤独に過ごしていた。ある日いつものように悪夢を見たチャーリーは現実世界にモンスターがいることに気付く。モンスターに襲われそうになった時に、ナイトメア管理部隊という三人組がチャーリーの部屋に飛び込んできたのだった。

特殊な能力があるが故に孤立した子どもが、その特殊能力を持つ子どもたちが集められた施設へと行き、その能力を使いこなすための訓練を受ける。このパターンの物語は大ヒットしたあれも含んであれこれ思い起こせるでしょう。
しかも主人公はその能力が秀でており、そのため施設の中でも目をつけられ、悪しき存在からも目をつけられる。これも定番の流れです。
しかしチャーリーは自分の能力が秀でていることにショックを受けます。それはそのために大きな運命を背負うことになるからではなく、やっと「自分と同じ」仲間に出会えたと思ったのに、結局「自分だけ」違う存在だと思い知らされることになったから。能力の大きさを誇ることも、ちやほやされる時間も与えられずチャーリーは能力の大きさ故に孤立します。この視点は独特のものであり、この物語の核となるものです。
その思いがあるから、悪しき存在からの声がチャーリーに響きますし、かなり強引に親友になったシオドアの存在が光ります。自分を認めてくれる存在がチャーリーの心を揺さぶります。

物語は急展開に継ぐ急展開で進み、大いに盛り上がったところで次号に続く!となります。しかし続き出てないんですよねえ。むむむ。本国でも出ていないのかなあ。
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『海の家のぶたぶた』(矢崎存美)

海の家のぶたぶた (光文社文庫)
海の家のぶたぶた (光文社文庫)

見た目はぶたのぬいぐるみ、中身は中年のおじさん。そんなぶたぶたさんのシリーズ。本によってぶたぶたさんの設定は変わるのですが、今回は海の家の店長さんです。

小学生の頃は夏休みごとに海水浴に行っていたのですが、海の家に入った記憶はないのです。だから外から見ていたイメージでは、浮き輪やボートを貸していたり、ラーメンや焼きそば、かき氷を売っている。そんな感じなのです。
ぶたぶたさんの海の家もそんな昔ながらのものですが、そこはぶたぶたさん。かき氷に思い入れをたっぷりと注ぎ込んでいます。ふわふわ氷に自家製シロップ。フルーツやアイスクリームのトッピングも。口の中ですっと溶ける冷たさ。しっかりと甘いのにくどくない。あーかき氷食べたい!そんな気持ちを盛り上げてくれます。

ぶたぶたさんのシリーズは、悩める人がぶたぶたさんと出会い、ぶたぶたさんの人柄(ぶた柄? ぬいぐるみ柄?)とぶたぶたさんの料理によって癒されていくというのがパターンとなっています。
しかしぶたぶたさんはただの…人(ぶた? ぬいぐるみ?)特殊能力を持っている訳ではないのです。ただ話を聞いてくれる。そこから思うことを伝えてくれる。
悩める人はなかなか他人に思いを伝えられない、他人の声を聞くことができない。だって悩んでいるのだから。余裕がないのだから。でもぶたのぬいぐるみ相手なら話せることもあるのかも。聞くことができるのかも。
今回もバイトを反対された女子高生、引っ越して寂しい男の子、両親の思い出に悩む男性などなど、悩める人がぶたぶたさんに出会います。大丈夫ぶたぶたさんがいるのだもの。そんな風に思わせてくれるのです。

『異邦の探求者 イストワール・エトランゼ』(成田杣道)

異邦の探求者 ―イストワール・エトランゼ― (電撃文庫)
異邦の探求者 ―イストワール・エトランゼ― (電撃文庫)

空間断裂実験の失敗「ザ・デイ」により変わり果てた世界。「ザ・デイ」の影響で、肉体を虚数界に移された「エトランゼ」、特殊な能力を得た「ライナー」、実験の被験者として集められた死刑囚に異能をもつに至った「囚人共(ジェイルズ)」が生まれ、不可思議な異常現象が起きる「痕(トレース)」という異邦エリアが世界各地に現れた。
その「痕(トレース)」のひとつ占都で占い師連続誘拐事件が起こり、異邦の地の謎を調査する「黒の協会」所属のエージェントの了次とルートのコンビが任務に当たることとなった。そこには伝承の「稀世の占い師」にまつわる人々の願いがあった。

SFファンタジーと称すればいいのでしょうか。専門用語(造語)が飛び交う世界の中で、主人公がその特殊世界の理の下で冒険を繰り出します。
この手の作品はまず世界観を飲み込むのが必要なのですね。そうでないと登場人物のセリフも行動も何もかも訳がわからなくなりますので。
かといって冒頭にズラズラと世界観の説明ばかり書かれても読む気が失せる。この辺りのバランスが難しいでしょう。
ここでは主人公コンビがはじめから動き回り、その合間に世界観の説明があり、設定を追っているうちに物語も展開するようになっていました。それでもわからない部分も多く出てきて、その度にえーっとこれはどういうことだ?と推考してましたが。まあノリですっ飛ばしても読めるようにはなっていましたので、難しく考えずとも楽しめます。

キャラクターにはそれぞれ行動に対する理由があり、それに則り動いているので突飛な設定でも感情移入しやすいです。作品レーベル的にはもっと性格を突き抜けたものにしてもいいのではないかという気もしましたが。でもそれはラノベレーベルに対する先入観(偏見)ですかね。

『母さんがこわれた夏』(マリャレーナ・レムケ、松永美穂・訳)

母さんがこわれた夏
母さんがこわれた夏

ショッキングなタイトルになかなか手が伸びずにいましたが、思い切って読んでみると実に静かな物語でした。

ドイツに住む一家の物語。四つ子のきょうだいと両親。決して裕福ではないけれど幸せな一家。
前半は一家の生活が静かに丁寧に描かれます。四つ子それぞれの個性、空想の旅行の話を語る父さん、それを見守る母さん。しかし徐々に母さんがひとりになることが多くなり、子どもたちよりも先に寝室へ行ったり、家事が疎かになることも。
夏休み一家初めてのフィンランドへの旅行。そこで四つ子たちはそれぞれ初めての経験を喜ぶが、母さんは益々いつもと様子が変わっていく。

そして母さんの入院。
家族に鬱の病状が現れた時、家族はどうなるのかどうすればいいのか。
鬱になることに理由はなく、鬱が治るために家族にできることは何かもわからない。そんなわからない中でも、子どもたちが母さんのことが大好きであるということは変わらない。
いい子でなかったから母さんが鬱になったのでもなければ、いい子でいれば母さんが治る訳でもない。入院は母さんが母さん自身と向き合う時間を作るため。そんなことが静かに優しく書かれています。

家族に鬱の症状が出ること、これは現実として子どもたちが経験するかもしれないこと。鬱とは何かを知らなければ変に怖がるだけ、そして自分を責めることにも繋がりかねない。鬱が出てくる物語はそんなことを防いでくれる役割もあるでしょう。
しかもただつらく悲しい物語にせず、日々の生活の中での楽しいこともしっかりと描かれています。
鬱をテーマにしながらも鬱を特別視しない。そこに作者の強く温かい目を感じます。

『さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!〜』(さかなクン)

さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~
さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~

テレビでもお馴染みのさかなクンによる自叙伝。幼い頃(幼魚時代)から現在(成魚)までのことが書かれています。

トラックと妖怪が大好きだった子がタコと出会い魚全般に興味を持っていく。その様子が詳しく書かれています。それも失敗談を核にして書かれているんですね。
タコに出会いたいから海に行き捕まえたのに、炎天下の下でバケツに入れたままだったので死なせてしまったこと。割烹料理屋の水槽にいたウマヅラハギを貰おうとしたら姿造りとなって出てきたこと。魚は食べることも大切とさばいて刺身にしたものの水で洗ってそのまま出したので味がしなかったこと。ハゼの水槽にコバルトスズメをそのまま入れて死なせてしまったこと。そんな失敗の連続がそのまま綴られているのです。
そしてそこにはいつもじっと見守るさかなクンのお母さんの姿も。

失敗を繰り返すことができる環境が、今のさかなクンを生んだのだというのがわかります。つい先走って失敗しないように口を挟むこともなく、失敗した後責めることもなく、自分で考え自分で行動する場を作っていたお母さんの姿がさかなクンを通して見えるのです。
もしかするとそれこそがさかなクンが伝えたかったことかも知れません。失敗はつらいことです。場合によっては周りに迷惑をかけることもあります。しかしその失敗をなかったことにしては、次に繋がらない。失敗を先に取り除かれたら、自分で考えることができなくなる。失敗を繰り返してもいいんだよ。そこから次のステップが生まれるのだから。
それは子どもたちに伝えたいことですし、子どもたちに接する大人も知っておきたいことです。そのことがあのさかなクンの姿そのままに記されていました。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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