FC2ブログ

『青い鳥文庫ができるまで』(岩貞るみこ)

青い鳥文庫ができるまで
青い鳥文庫ができるまで

今の子どもたちにとって身近な本のひとつが「青い鳥文庫」でしょう。青い鳥文庫が置いてあることによって、自分たちの(自分たちが対象となっている)棚であると認識する子も多くいます。
そんな「青い鳥文庫」はどのようにして作られて自分の手元までやってくるのか。それを物語仕立てで伝えてくれる本です。

架空の人気シリーズ「白浜夢一座がいく!」のシリーズ最新作が作られる様子が、編集会議から本屋に並ぶまでこと細かに書かれています。担当編集者を主人公とし、物語として展開していくのでわかりやすく、ところどころしっかりと説明も入っているので本ができるまでの過程がわかりやすく、改めて驚いたり感心したりする部分も多いです。
物語仕立てになっているため、緩急の波もあり読みやすいです。果たして発売日までに間に合うのか!?という物語ならではの興味を惹く部分も楽しめます。
児童書であるからこそ守られていることや尊重されていることなど、児童書を作ることとはどういうことかという部分も書かれています。そこには子どもたちにより楽しくよりいいものを届けたいという出版社の想いもあり胸を打ちます。
今話題となっている児童書の挿絵問題についての言及もあり、児童書を巡る問題というのは尽きないものだと思わされます。そしてその問題に真摯たる気持ちで向き合い、児童書を作っているのだということも知れます。

子どもたちにとって身近な本。それがどのようにして作られるか。それを知ることで子どもたちにとって益々身近なものになるのかも知れません。
スポンサーサイト

『バーティミアス サマルカンドの秘宝』(ジョナサン・ストラウド、金原瑞人、松山美保・訳)

バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝
バーティミアス (1) サマルカンドの秘宝

妖霊を操る魔術師たちが権力を握る世界。ナサニエルははずかしめを受けた魔術師に復讐するためにバーティミアスを召還するのだった。
翻訳児童ファンタジーの金字塔のひとつ。やっと読みました。未熟だけど負けん気の強い主人公と、皮肉屋の妖霊バーティミアスの凸凹コンビが織り成す冒険譚を楽しみました。

主人公がピンチに陥りハラハラドキドキして応援する。冒険ものの物語の醍醐味です。ナサニエルも次から次へとピンチに陥ります。しかしそのピンチは強大過ぎる敵の狡猾な罠のためではなく、ほとんどが自分の未熟さと傲慢さと自尊心の高さから起こるものなのです。謂わば自業自得のピンチ。そのため読者はナサニエルに感情移入しにくいということもあるでしょう。
この物語ではナサニエル視点の三人称記述と、妖霊であるバーティミアス視点の一人称記述を交互に展開させています。そのためナサニエル視点のみでは、ナサニエルに感情移入しにくいとけれども、バーティミアスによってナサニエルの欠点がズバズバと語られ明確に指摘することよってナサニエルというキャラクターを受け容れやすくなるのです。

冒頭からナサニエルの行動原理は全て復讐でした。自分の境遇への復讐、自分を認めない人たちへの復讐、はずかしめられた復讐、運命への復讐。そして自らの失敗により大切な人も何もかもなくしたあとも、反省して変わるのではなく破れかぶれの復讐を誓うのです。バーティミアスはその復讐を、良心の呵責から自分を滅ぼそうとしているだけと分析します。結局は自分のためだと。しかし復讐心や自尊心の高さは孤独の裏返し。そこには復讐以外の動機もちゃんとあるのです。
良心の呵責ということは、良心があるということ。三部作の序に当たる物語。ナサニエルの本当の成長はここから描かれるのかも。

『戦争を取材する 子どもたちは何を体験したのか』(山本美香)

世の中への扉 戦争を取材する─子どもたちは何を体験したのか
世の中への扉 戦争を取材する─子どもたちは何を体験したのか

何故戦地に赴いて取材をするのか? 何故危険な地域で取材するのか?
丁度いまこの問題がクローズアップされているので、この本を手に取りました。

児童書として子どもたちを読者対象に書かれているため、内容も戦地に於ける子どもたちが中心となります。戦争で家や家族をなくした子、地雷で体に障害を負った子、少年兵として戦争に参加していた子、故国を追われて難民となった子。
各地での様子がその子の経験を通して伝えられます。そこにはその子らの写真と名前も添えられるためどこかの国の誰かの話でなく、例えばコソボに住む13歳の少年アデムの経験というように直接的に届くのです。現地に赴き当人と話したからこそ伝えられるものがあるでしょう。そしてそれを読むことによって感じるものもあるでしょう。

この本は7年前に出版されています。10年に満たない月日ですが、その間に世の中がここまで変わるのかとの驚きもあります。遠い国の事情として書かれていたことが、この国で目の前で起こっているのです。戦争とは何かを伝えてきた人たちの声が、いま届きにくくなっているのかも知れません。だからこの本は当時の事情を知るためのものというだけでなく、普遍化されたものとして読み継がれるべきものでしょう。

著者の山本美香さんはこの本を出されたあと、取材先で亡くなられています。何故戦地に赴いて取材するのか? 何故危険な地域で取材するのか? そこにいる人たちの声が世界に届けられていること。その声をきちんと受け止めているのか? 改めて考えさせられます。

『小説 若おかみは小学生!劇場版』(原作・文・令丈ヒロ子、脚本・吉田玲子)

小説 若おかみは小学生! 劇場版 (講談社文庫)
小説 若おかみは小学生! 劇場版 (講談社文庫)

大絶賛の声を聞くアニメ映画のノベライズです。しかも原作者自身が書いているというなかなか面白い構成になっています。

長く続くシリーズ物をひとつの映画にしようとするとどうするのか。総集編のように抜き出して再構成するか、導入部のみに限定して描くか。どちらの場合も原作とは違うその映画としての魅力を求められるでしょう。
今作では原作のエッセンスを抜き出し再構成してひとつの流れを作り出し、ひとつの独立した物語として成り立たせています。主人公のおっこに焦点を合わせて各エピソードをおっこの感情に乗せて積み重ねる。原作から抜き出したエピソードを並べるのでなく重ねることによって、ひとつの物語の流れを作っているのです。
そのためおっこ以外の登場人物の(特にメイン側の)役割が限定されたものになっています。しかしだからこそひとつの物語として完成されているのでしょう。テーマをぶれさせずに、おっこの視点で出会いと別れを描く。この一連の流れがとても美しく、身を任せるのが心地好いのです。

またアニメ映画であるということで、絵として映えるシーンが多いですね。それを小説版で再現する面白さ。実は映画は未見なので、見た時にこの小説版の表現との相乗効果があるんじゃないかと楽しみにしています。

『海にはワニがいる』(ファビオ・ジェーダ、飯田亮介・訳)

海にはワニがいる
海にはワニがいる

アフガニスタンの小さな村に住んでいた少年エナヤットは、その身の危険を案じた母親によって隣国パキスタンに連れ出され置いてけぼりにされる。エナヤットは仕事と食料と寝る場所を求めて密入国を繰り返す。それは安住の地を求める旅だった。

エナヤット少年の実体験が作家によって再構成された物語。合間に不意にエナヤットと作家のやり取りが挿入され、これが実際に起こったことなのだということが突き付けられます。そのためドキュメントでもなくフィクションでもない独特のものとなっています。
難民の密入国や不正就労の話。しかもそれが未成年者であるということ。そのこと自体かなり重い事実です。それを事実の列挙としてレポートを読むのはなかなかつらいものがあります。しかし物語の形で示されると受け容れやすくなるのではないでしょうか。
もちろん物語になるということは、そこに語り手の意思が含まれます。そのことを念頭に置きながら読むことで、問題を(ここでは難民問題)知ることのきっかけになるのでしょう。その後に改めて調べたり考えたりする入口となるでしょう。物語にして主人公を設けることによって、却って普遍的なものとなることもあるでしょう。

作中で密入国を手助けする「運び屋」という人物が多々出てきます。福祉的理念のもと行なうのでなく金銭授受のためのビジネスとして行なっているものです。なぜ密入国の手助けがビジネスになるのだろうと思っていましたが、低賃金で社会保障のいらない労働力の入手が目的だったのだと気付き戦慄しました。しかしその違法労働があったからこそ、エナヤットたちは生き延びることもできたのです。
かと思えばエナヤットを全くの無償で助けてくれる人も出てきます。言葉もわからない正体もわからない少年を見捨てられなかった人々がいたのです。
それらのことが重く心にのしかかり、その重さによって刺激される何かを感じること。それが面白く感じたのです。これが知ること考えることの面白さなのでしょうか。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村

FC2カウンター
ブクログ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
検索フォーム