『自閉症の僕が跳びはねる理由』(東田直樹)

自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)
自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)

NHKのドキュメントで彼のことを知り、この本の存在も知り気になっていたのです。やっと読むことができました。自閉症である自分のことについて世間の人が思っている疑問に答えるという一問一答の形で書かれています。

文字ボードを使ってコミュニケーションをしている姿や、その言葉のわかりやすさに驚嘆させられました。自閉症の人はコミュニケーションができないのではなく、苦手なのだということを彼の姿を見ることでわかったのです。
この本でも質問に対して真摯にそしてわかりやすく答えられています。このわかりやすい答というのは、自閉症でない読者のことを想像するからこそ生まれるものでしょう。相手のことを慮ってこその言葉でしょう。そこにも自閉症の人たちへの偏見を覆すものがあります。

もちろん自閉症の人全てが彼と同じではないでしょう。それは何事に於いても意識しなければならないことです。でも自分と違う人が自分と同じものを感じたり、やはり自分と違うものを感じている。そんな当たり前のことを知るきっかけとなる本でしょう。
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『ようこそ、おまけの時間に』(岡田淳)

ようこそ、おまけの時間に (偕成社文庫)
ようこそ、おまけの時間に (偕成社文庫)

授業中12時のサイレンが聞こえてきたと同時に、賢は夢の世界に入り込んでいた。そこでは茨が四方八方に入り乱れており、教室のみんなの体に巻き付いていた。その日から毎12時に夢の世界に行けることを知った賢は、茨を切り体を自由にして周りの友達も茨から解き放つのだった。
いつもと同じだけど何かが違う、そんな夢の世界で自由に動けることができたならどうするか。そこで目覚めたクラスメイトはいつもと違う感じがしたのは何故か。そう思うと茨が何を象徴するものかが見えてきます。
夢だと思ったから素直になれた。夢だと思ったから格好をつけられた。夢だと思ったからいつもと違う自分になれた。つまりそれは現実世界ではそうできなかったとのこと。夢で体の自由を奪っていた茨は、現実世界にもあるのかも知れない。
そんなことを考えさせる部分と、いつもの学校だけどいつもと違う学校、そんな異世界を子どもの力だけで切り開いていく冒険の楽しさが絶妙に絡み合っています。だから読んでいてまず楽しさがあります。どうやって茨を切っていくのか、目が覚めた子らとの連携、先生や親にはナイショの時間。そんなドキドキする気持ちを高めてくれるのは、冒険の舞台が学校という子どもたちにとって何よりの日常だからかも知れません。

『ネズミの時計屋さんハーマックスの恋と冒険1 〈月の樹〉の魔法』(マイケル・ホーイ、雨沢泰・訳)



ネズミの時計職人ハーマックスの元にやって来た飛行士リンカ。彼女はハーマックスに壊れた懐中時計の修理を頼むのだった。リンカに一目惚れをしたハーマックスは懐中時計を修理するが彼女はいつまでも取りに来なかった。そんなある日彼女の代理人だという怪しげな男がハーマックスの元に現れた。
ネズミの時計屋さん、しかも恋と冒険というタイトルから、甘やかなファンタジーを想像して読み始めたのですがハードボイルド的展開が待っていました。
人死に(ネズミ死に?)も出る物騒な事件に巻き込まれたハーマックスですが、リンカへの恋心を支えにずんずんと突き進むのです。おやじネズミと揶揄されるハーマックスですが、想いは一途で一直線です。怪しい男を尾行しリンカがさらわれるところを目撃し、重要な情報を入手し敵地に乗り込んでいきます。
その展開の小気味いいこと。訳者あとがきによると作者が海外出張の妻に毎夜送ったメールが元になっているとのこと。なので1章1章が短く、テンポのいいセリフの応酬や場面転換も軽やかなのです。かなり思い切ったストーリー展開なのですが、それも気にならず一気に読まされます。
ハーマックスたち動物が人間さながらの生活をしているのですが、その舞台はこの世界のどこかなのか、全く違う次元の世界なのかはハッキリとしません。この世界で100年ほど前の感覚でしょうか、その世界観も楽しめます。ハーマックスは鳥かごにテントウムシのターフルを飼っているのですが、ネズミとテントウムシの大きさの対比はどうなるのだろう? などと考えながらその世界に浸るのも楽しかったです。
このシリーズは第3作まで出ているのだとか。これはまたまた読まねばならない本が増えました

『Jに羽根はいらない』(界達かたる)

Jに羽根はいらない

涼平がバスケットコートで出会った少女涼羽は、怪我のためバスケを諦めようとしていた。そのことに憂いを感じた涼平は、涼羽にあるゲームを提案するのだった。
実に真っ直ぐで真っ正直な青春物語でした。好きという気持ち、打ち込めるもの、怪我、事故、病気、家庭の事情、幼なじみ、憧れの人、偶然の再会などなど、まるでみんなが好きなものを詰め込めるだけ詰め込んだ幕の内弁当のような展開が待っていました。しかもそれぞれの要素がどこかで味わったことのある感じで、だからこそ安心して味わうことができるというものでした。そのため実に読みやすくスッと情景が流れていきます。
3章仕立てになっており、それぞれ視点が時間や人物を変えることで変化をつけ、物語を多重層構造にしています。ある仕掛けもとてもきれいに仕掛けられています。しかしそれもわかりやすく提示されているため、どこか既視感めいたものがあるのです。
でもこれが今風の物語なのかも知れません。安心思考というのでしょうか。驚くにも感動するにも先もって心の準備をしてからでないと、安心して驚けないし感動できない。驚きや感動にきちんと道標が立てられている。幕の内弁当の中身は知ったおかずでないと食べにくい。
物語自体は面白いものでした。青春小説は恥ずかしいくらい真っ直ぐな方が伝わることもあるのでしょう。物語の面白さを体験するのにいい作品かも知れません。

『森へようこそ』(風野潮)

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物語のリアリティとは何をもって言うことなのだろうか。ここでは植物の声を聞いたり植物と同調するという超常現象じみたことが出てきます。しかしそれをもってリアリティがないというのは違うと思うのです。これはそういうものそういうお話として設定を受け容れたあと、そのことによる登場人物の感情や行動に納得し得るかどうか。そこが物語に於けるリアリティなのではないでしょうか。
ずっと離ればなれにいた双子の弟に、植物の声が聞こえるという変わった能力があるということ。そのためにクラスの子らと馴染めず不登校となっていること。それに対して美森ははじめ変だと思い、後に瑞穂に共感していく。その感情の移り変わりは実にリアリティがあったのです。だからこそ読者も美森や瑞穂に感情移入していけるのでしょう。
そして登場する大人がみな子どもに対して正直なのですね。正直過ぎて自分の弱さも自分勝手さも見せてしまうので、子ども側からすれば大変なのですが。その描写もこの物語を支えるものともなるのでしょう。
弱いものや自分たちと異なるものを排除し攻撃するということ。そのこともさらりと書かれているため、怖さを感じさせます。問題から目を背けた担任の先生はその行ないを悔いますが、実際にいじめていた子らはそれに対して罪悪感は持っていないように見える書かれ方にも怖さが募ります。それでいながらいじめられていた側が自らの強さによって前に進むことで、一旦物語は幕を閉じます。さて、その後クラスはどうなるのだろう、と気になったのですが、この物語の主題は家族の再生。クラスの再生はまた別のお話となるのかも知れません。
全体の流れからは心温まる物語なのでしょうが、そんな登場人物たちの感情のリアリティに怖さをも感じた作品でした。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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