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『氷の海のガレオン/オルタ』(木地雅映子)

氷の海のガレオン/オルタ (ピュアフル文庫)
氷の海のガレオン/オルタ (ピュアフル文庫)

自分を天才だと称して「学校なんてなけりゃいい」と思う少女。隣の席の子の行為に恐怖を感じるが担任に通じず学校に行かない選択をした少女。「普通」とは何なのだろう。

強烈な刺激で頭に心に溢れ出す想いを言葉にできず身体が痺れたようになった。
僕は今でもなぜ「普通」に生きられないのだろうかという想いに囚われている。子どものころは「普通」でないことを武器にしなくちゃ生きていけなかった。
だからこそ今こんな風に思っている子どもたちに「普通」なんてものはないのだよと伝えなきゃいけない。そして「この世界には楽しいことがたくさんあるよ」と伝えなくちゃいけない。子どもたちが進み出すそんな世界を作らなくちゃいけないと思っている。
そしてこの本を手渡そう。
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『また、同じ夢を見ていた』(住野よる)

また、同じ夢を見ていた
また、同じ夢を見ていた

純粋と聡さを固めたような主人公の少女は、学校のクラスメイトが馬鹿に思えて友達ではないと言う。そんな彼女が出会った友達は、尻尾の短い彼女とアパートに住むアバズレさんとお菓子を作ってくれるおばあちゃん、そして手首に傷がある南さんだった。
授業で提示された問題「幸せとは何か?」彼女はその答を求めて友達と語り合うのだった。

主人公は実に純粋です。他人からの言葉を真っ直ぐに受け止めることができます。そして実に賢いです。だからその言葉を自分の中で整理して自分の価値観で見ることができます。
しかし、純粋故に他人を傷付けてしまうことのあること、純粋故に他人の意見を受け容れなくなること、賢いが故に気付かない想い、そんなことがあることに彼女は気付いていなかったのです。純粋と聡さを持つが故に生きにくい道を選びそうになる彼女に、出会った友達たちが本当に彼女が選ぶ道を気付かせてくれます。
あの時の選択は正しかったのか。それを気付かせてくれるのは一体誰なのか。

「幸せとは何か」「人生とは何か」その問いに答えるため彼女は考えます。純粋で聡い彼女は、純粋で聡いが故に間違いも犯します。でも純粋で聡い彼女は、純粋で聡いが故に答えに辿り着くのです。
物語の読了後自らの心に問うでしょう。幸せとは何でしょうか?

『小説 映画ドラえもんのび太の月面探査記』(辻村深月)

小説「映画 ドラえもん のび太の月面探査記」
小説「映画 ドラえもん のび太の月面探査記」

映画ドラえもんの脚本が辻村深月だと聞き、ついに!と思った人も多いでしょう。ドラえもんの(いや藤子・F・不二雄の)ファンだと公言し、オマージュ的作品も書き、ドラえもんや他の作品についての想いも多く語られていました。そんな「辻村深月のドラえもん」がついに生まれるのかと感慨深かったです。
そしてその作品が本人の手によって「小説」となりました。アニメ作品は脚本だけでできる訳ではありません。そこに絵が付き声が付き音楽が付き、総合的に作り上げられていくものです。その過程を見つつ、脚本を手掛けた作家本人によって小説化されるのは何とも面白い感覚ですね。

ドラえもんの小説となると瀬名秀明による「鉄人兵団」もありますが、それともアプローチが違ったことも面白かったです。鉄人兵団は謂わば「既に知っている物語」なのですね。映画でリメイクされるタイミングで出た本ですが、原作まんがを元に書かれています。そこでは原作に描かれていなかった登場人物の心情の機微を書くことで小説となり、物語の隙間や裏側を書くことで原作との差異を書きました。でもこの「月面探査記」は未だ語られていない物語なのですね。これから語られる新たな物語。だから物語の展開に主眼を置かれて書かれています。これからどうなるのだろう。のび太たちは大丈夫だろうか。このピンチをどう切り抜けるのだろう。作者曰くこの作品が初めての小説との出会いになることも想定したとのこと。(今回は一般書体裁で読みましたが、児童文庫体裁でも出ています。)だから物語の力、ワクワクドキドキする想いで引っ張ってくれます。

ドラえもんの映画には「お約束」があれこれとあります。そこをきちんと押さえて、いつものドラえもんの世界を構築しながら新たな物語が展開されます。これが楽しい読書体験となって欲しい。そんな想いも感じる作品でした。面白かった!

『神様ゲーム』(麻耶雄嵩)

神様ゲーム (ミステリーランド)
神様ゲーム (ミステリーランド)

話題になっていたので気にはなっていたのですが、ようやくやっと読むことができました。いやはやこれは確かに問題作ですね。麻耶雄嵩らしいと言いますか。「少年少女のための」と謳っているミステリーランドでこれを書くのがすごいといいますか、らしいと言いますか。

小学四年生の芳雄の住む街で起こる連続猫殺害事件。その犯人を名指しした転校生の鈴木くんは、自分のことを「神様」だと言うのだった。鈴木くんの話から芳雄たち探偵団は猫殺しの犯人を追跡するのだったが、殺人事件に遭遇することになったのだった。
鈴木くんが神様である。だから何でも知っている。芳雄はゲームとして受け取るのだが、徐々に信じざるを得ない状況になっていく。鈴木くんの言葉には芳雄自身も知らなかった出生のこと、そして死のことまでもあった。
これは怖いです。鈴木くんは神様と言えど慈悲の心から芳雄に真実を告げるのでなく、ただ聞かれたから答えるといった調子なのです。淡々と語られることが真実だと認めざるを得なかった時の芳雄の衝撃。それはその後起こる数々の事件の前触れであり、犯人に対して天誅を望んだ時の結果は衝撃を越えてただ受け取るしかできない虚無のような心持ちだったでしょう。
そして訪れる驚愕の結果。何故? どうして? 今までの推理の流れは何だったのか。鈴木くんは神様だから間違うことはない。だとしたらこの結末が意味するものは何なのか? ぽーんと放り投げられたような結末に身震いします。

『海のはてまで連れてって』(アレックス・シアラー、金原瑞人・訳)

海のはてまで連れてって
海のはてまで連れてって

豪華客船で働く父さんと一緒にいたいため、ぼくとふたごの弟のクライヴは父さんの乗る船に密航することにしたのだった。

シアラーの書くおバカな(誉め言葉)少年たちは実に愛おしいのです。お調子者でちゃらんぽらんで短絡的。でも明るく前向きで機転が利いてめげないのです。
ぼくとクライヴのふたりも、しょっちゅう相手をけなして言い合いしてけんかするけれど、コンビプレーで困難を乗り越えるのです。まあ大抵は行き当たりばったりなのですけれど。
5分早く生まれたため兄としての重責を負わされていると思っているぼくは、弟のクライヴのことをけちょんけちょんに語ります。しかしふたりの行動を見るに、結局は似た者同士のふたごなんですよね。クライヴの方がのびのびと行動しているだけで。それこそがぼく曰く「弟の特権」なのかも知れませんが。しかしそんなぼくも何か起こるたびに「クライヴのせい」と責任を押し付けているので、結局どっちもどっちなのですが。

豪華客船での旅の楽しさ。密航が見付かるのかもしれないという緊張感と、それを切り抜ける大胆なアイデアの爽快感。そして起こる事件。げらげらと笑いながら読み進めていると、不意に現れる父子の情愛描写。あー面白かった!と満足満腹な一冊です。

蛇足として。主人公で語り手の「ぼく」の名前が一切出て来ないので、もしや何か仕掛けがあるのでは!?と思ってしまうのはミステリ好きの悪いクセですかね。
そしてクライヴはぼくのことを「そっち」と言うのですね。これがふたりの距離感を巧く表わしているなと思うのです。名前を出さないとしても「兄ちゃん」でも「お前」でもなく「そっち」。これは原文では「you」なのでしょうか。これは日本語ならではの表現なのかも。だとすると翻訳の妙というやつですね。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区阪南町3−7−8



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