『ナイトメア・アカデミー 異界からの招待状』(ディーン・ローリー、池内恵・訳)

ナイトメア・アカデミー 異界からの招待状
ナイトメア・アカデミー 異界からの招待状

チャーリーが悪夢を見ると悪いことが起こる。幼い頃より繰り返し起こる悲劇。そのためチャーリーは学校にも行けず家で孤独に過ごしていた。ある日いつものように悪夢を見たチャーリーは現実世界にモンスターがいることに気付く。モンスターに襲われそうになった時に、ナイトメア管理部隊という三人組がチャーリーの部屋に飛び込んできたのだった。

特殊な能力があるが故に孤立した子どもが、その特殊能力を持つ子どもたちが集められた施設へと行き、その能力を使いこなすための訓練を受ける。このパターンの物語は大ヒットしたあれも含んであれこれ思い起こせるでしょう。
しかも主人公はその能力が秀でており、そのため施設の中でも目をつけられ、悪しき存在からも目をつけられる。これも定番の流れです。
しかしチャーリーは自分の能力が秀でていることにショックを受けます。それはそのために大きな運命を背負うことになるからではなく、やっと「自分と同じ」仲間に出会えたと思ったのに、結局「自分だけ」違う存在だと思い知らされることになったから。能力の大きさを誇ることも、ちやほやされる時間も与えられずチャーリーは能力の大きさ故に孤立します。この視点は独特のものであり、この物語の核となるものです。
その思いがあるから、悪しき存在からの声がチャーリーに響きますし、かなり強引に親友になったシオドアの存在が光ります。自分を認めてくれる存在がチャーリーの心を揺さぶります。

物語は急展開に継ぐ急展開で進み、大いに盛り上がったところで次号に続く!となります。しかし続き出てないんですよねえ。むむむ。本国でも出ていないのかなあ。
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『母さんがこわれた夏』(マリャレーナ・レムケ、松永美穂・訳)

母さんがこわれた夏
母さんがこわれた夏

ショッキングなタイトルになかなか手が伸びずにいましたが、思い切って読んでみると実に静かな物語でした。

ドイツに住む一家の物語。四つ子のきょうだいと両親。決して裕福ではないけれど幸せな一家。
前半は一家の生活が静かに丁寧に描かれます。四つ子それぞれの個性、空想の旅行の話を語る父さん、それを見守る母さん。しかし徐々に母さんがひとりになることが多くなり、子どもたちよりも先に寝室へ行ったり、家事が疎かになることも。
夏休み一家初めてのフィンランドへの旅行。そこで四つ子たちはそれぞれ初めての経験を喜ぶが、母さんは益々いつもと様子が変わっていく。

そして母さんの入院。
家族に鬱の病状が現れた時、家族はどうなるのかどうすればいいのか。
鬱になることに理由はなく、鬱が治るために家族にできることは何かもわからない。そんなわからない中でも、子どもたちが母さんのことが大好きであるということは変わらない。
いい子でなかったから母さんが鬱になったのでもなければ、いい子でいれば母さんが治る訳でもない。入院は母さんが母さん自身と向き合う時間を作るため。そんなことが静かに優しく書かれています。

家族に鬱の症状が出ること、これは現実として子どもたちが経験するかもしれないこと。鬱とは何かを知らなければ変に怖がるだけ、そして自分を責めることにも繋がりかねない。鬱が出てくる物語はそんなことを防いでくれる役割もあるでしょう。
しかもただつらく悲しい物語にせず、日々の生活の中での楽しいこともしっかりと描かれています。
鬱をテーマにしながらも鬱を特別視しない。そこに作者の強く温かい目を感じます。

『影の王』(スーザン・クーパー、井辻朱美・訳)

影の王
影の王

シェイクスピア劇の上演のためロンドンへと来たアメリカの少年ナットは、目覚めると16世紀のロンドンにいた。そこでナットはシェイクスピアの元で新しくできたグローブ座の舞台で妖精パックを演じるのだった。

タイムスリップものの面白さは、主人公とともにその時代を楽しむところでしょう。ここでも16世紀ロンドンの様子がこと細かに描写されています。生活や習俗の違いからからのショックをまず描き、その後過去世界に慣れていくにつれてその世界のよさも見えてくる。それはナットの目を通じて読者も同じように感じさせられ、世界に入っていきます。
そしてナットのタイムスリップはただナットが過去に飛んだというだけでなく、16世紀の少年と入れ違いになったことが示され、それが大きな意味を持ちます。
ナットとシェイクスピアとの出会い。それは歴史上の偉人に出会ったということ以上に、ナットに大きく影響します。憧れと安堵感。この人とと共にいたいという思い。それは父母を亡くしたナットの心に沁み入り隙間を埋めてくれるのです。
ナットのタイムスリップには歴史的な意味があったことが後に示されますが、それよりもナット自身がシェイクスピアに出会う必要があったのでしょう。だから出会いと別れ、そして別れた後も常に影響し合うことの大切さや素敵さが響きます。

これを読む前にもっとしっかりとシェイクスピア作品を読んでおけばよかったと思わされました。特に「真夏の夜の夢」は必読です。それによってより深く物語が楽しめるでしょう。

『ぼくらのミステリータウン5 盗まれたジャガーの秘宝』(ロン・ロイ、八木恭子・訳)

盗まれたジャガーの秘宝 (ぼくらのミステリータウン)
盗まれたジャガーの秘宝 (ぼくらのミステリータウン)

ディンク、ジョシュ、ルースの三人組はディンクのおじさんの働くニューヨークの博物館で、エメラルドのすり替え事件に遭遇するのだった。

児童書コーナーで薄めのシリーズ物がズラズラと並んでいるのを目にします。その中のひとつ「ぼくらのミステリータウン」シリーズの中の一冊を手に取ってみました。シリーズ5作目なのですが、わかりやすいキャラクター配置にスッと物語に入っていきました。
インカ帝国の秘宝黄金のジャガー像が抱くエメラルド。そのエメラルドがいつの間にか偽物とすり替えられており、おじさんにもその嫌疑がかけられてしまう。その事件を解決するのが我らが三人組!という筋立てにはワクワクさせられます。
しかもわかりやすい児童書というのは、子ども騙しということでは決してないのですね。ミステリとして押さえておきたいポイントが揃っています。魅力的な謎がありさり気なく伏線を張りが張られ、推理の道筋を作りつつミスリードまで用意する。ページ数の制約からかなりご都合主義的にストーリーは展開しますが、それはマイナス要素というよりもテンポよく進むという印象になります。
これはミステリの入口としてなんとも素敵な作品です。これは子どものころに出会っていたら、絶対にハマっただろうな。ここから是非ミステリの世界奥深くまでおいでませ!

『戦火の三匹 ロンドン大脱出』(ミーガン・リクス、尾高薫・訳)

戦火の三匹: ロンドン大脱出 (児童書)
戦火の三匹: ロンドン大脱出 (児童書)

1939年イギリスがドイツに宣戦布告するとロンドンから子どもたちを疎開する人々が増えた。ロバートとルーシーのふたりも祖母の元に疎開することとなり、両親も戦争に備え空軍基地や船上病院での勤務につくために、ペットの三匹を近所に預けることとなった。しかしそこの主人によってペットたちが処分されそうになった時、三匹は命からがら逃げ出すのだった。

第二次世界大戦下でのイギリスの様子を、疎開する子ども、都会に残る子ども、その親たち、そしてペットの動物たちの目を通して書かれています。そこには戦争を前にして40万匹以上のペットが安楽死させられたという史実があります。
逃げ出した三匹ジャックラッセル犬のバスター、ボーダーコリー犬のローズ、猫のタイガーはローズの帰巣本能を元に旅をすることになるのですが、この三匹の個性が物語を引っ張っていきます。
イタズラ好きで好奇心いっぱいのバスター、真面目で慎重なローズ、マイペースなタイガー。それぞれの見せ場も用意されており、三匹の旅を彩っています。三匹は擬人化することなくあくまで犬猫として書かれています。そこは描写の巧さと言いましょうか三匹の内面に入り過ぎず、少し離れた位置から三匹の様子が書かれているのです。そんな三匹の行動から三匹の気持ちが想起され共感を生むことになります。そして読者も三匹と共に旅をすることになるのです。
そんな三匹と並行して人間の様子も描かれます。疎開先での人間関係、先の戦争の悲しみのために奇行を繰り返す祖母、戦争のために犠牲となる動物とそれを助けようとする人の活動。それらが組み合わされ戦争という重いテーマを扱いながらも温かさとユーモアにも溢れた作品となっています。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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