『岸辺のヤービ』(梨木香歩)



いかにもな物語、いかにもな文体、いかにもな挿絵、そんないかにもな要素が集まり素敵な作品となっています。こんな作品がいま生まれた喜び、いま出会えた喜び。
マッドガイド・ウォーターの岸辺に棲む小さないきもののヤービ。ウタドリ先生が偶然出会ったヤービから聞いた彼らの物語。ものを食べることに疑問を抱いたいとこのこと。ママを探しに冒険したこと。新しくできた友達とお茶会を開いたこと。冬ごもりの準備を始めたこと。
ヤービが出会ったのが学校の先生、大人であることがこの物語の肝となるのかも知れません。例えば体の弱い女の子でなく、例えば好奇心旺盛な男の子でもなく。大人であるウタドリ先生に、小さないきものの中でも子どもであるヤービが起こったことを話す。そのため物語の語り手は小さないきものたちの世界を知らぬとも、聞くことでその世界を自分で再構築して我々に伝えてくれます。
ヤービよりも少し高くから遠くまで見ることのできる大人の目で受け取っているので、ヤービ自身も気付いていないお話の奥にあるもの向こうにあるだろうものをも感じさせながら語られます。弱肉強食の食物連鎖のこと、変わりゆく自然環境のこと。あなたと私の繋がりのこと。それが世界の広がりとなり、より一層ヤービたちの息吹を感じさせるのです。
ふだん本を読みながら映像化を望むことは少ないのですが、これはアニメ化されてテレビで放映されたらいいなと思いました。身近にこんな物語があればいいなと思うのです。心が豊かになるだとかなんだとかでなく、だってその方が楽しいですもの!と言いたいのです。
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『エストニア紀行』(梨木香歩)



作家梨木香歩によるエストニア紀行。さてエストニアとはどこにあったっけ? それくらいの知識しかもたずに読み始めましたが、すぐにその地に引き寄せられました。
梨木さんの目を介してエストニアの文化と自然を見る。きっと自分がその地に立った時には気付きもしないものに気付かされ、エストニアの魅力に心を寄せます。
人の営みである文化や歴史。それは侵略を受けそれでも守り通したもの。僻地であり境界であるが故に生まれた世界。過去から連綿と続く人々の息吹を感じさせます。そして人が介しなかったが故に残った自然。人が人の理屈で離れた土地だから動植物がそれぞれの様相を成す。しかし人が介することによって姿を現す自然もまたあるということ。人も自然の一部なのか、自然も文化の一部なのか。梨木さんの目はその地の人々に自然に動植物に寄り添いながら、もう片方の目は異邦人としての目をそのまま残しています。そのため生まれる対象物との距離感が心地好く、遠い地に心を飛ばすことができます。

『不思議な羅針盤』(梨木香歩)



梨木香歩のエッセイは、じっくりと噛みしめるように読みます。決して読み難い訳ではないのですが、一言一言が重みをもっているので、しっかりと受け取らないと取り落としてしまいそうなのです。
対象物へ目や耳や心をしっかと向けて受け取ったものを、文章にのせて読み手の元へと届けてくれます。植物や動物たちに向ける目も人に向ける目と同じように、いや言葉をもたない相手だからそれ以上に真摯な心持ちがあります。植物に対して「彼女」と呼びかけるけれど、安易に同化するのでなく距離をおくべきところは距離をおく。それが敬意にも愛情にも繋がっているように感じられます。
婦人誌に掲載されていたということもあるのか、他のエッセイよりも作者との距離が近く感じられます。お茶のお供には少し歯ごたえが強いかもしれませんが、作者と空気感を共にすることの贅沢さにひたれます。

『渡りの足跡』(梨木香歩)

渡りの足跡 (新潮文庫)

梨木香歩のエッセイは難しいです。でもただ単に難しいのでなく、実に面白いんです。咀嚼するのに時間が掛かるだけ。それだけ読み応えのある1冊です。
渡り鳥の観察を通じて「渡るもの」たちへ想いを寄せる。単なる自然観察エッセイに留まらず、鳥たちの想いを想起し鳥たちへの畏敬の念と親近感を抱かせる。そして話は鳥たちに留まらず渡る(移民する)人々へも広がっていく。作者の観察眼が客観的でありながら、対象を自分の元へ引き込み想像たくましく想いを寄せる術が実に面白いんです。そのため、今まで興味を全くもっていなかった鳥たちをしっかりと感じることが出来ます。それはそれぞれの鳥たちの解説にも表れており、学術的な説明だけでなく作者の私的感想を織り交ぜているのがいいです。これが小説を成す作者ならではの表現なのでしょう。
作中にある「生物は帰りたい場所へ渡る」という言葉が印象的でした。これはきっと物理的な「場所」だけじゃないんでしょうね。

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

『雪と珊瑚』(梨木香歩)

雪と珊瑚と

シングルマザーの珊瑚が娘の雪を抱えながら、周りの人々の助けを借りて総菜カフェを開く物語。そう語ってしまえばそれまでだけど、そこに母と娘の葛藤、信仰、嫉妬、などなど様々な問題をはらませ、ひとつひとつの物事に重みを与えています。しかし骨格となる食を提供するカフェを開きたいという部分には、想いを形にしていく楽しさも描かれおり、そのバラン感が梨木香歩ならではだなと思い知らされました。映像化したものを見てみたいとも思いましたが、この絶妙なバランスが崩れるとただ単なる「オシャレカフェ」物語か「シングルマザーの成長もの」になりそうで怖いですね。
食に関する部分は以前から「食べることは生きること、生きることは食べること」という思いを強く持っています。ここでもそのことが語られており共感する部分も大きかったです。この「食」を「物語」に置き換えると僕の目指すものに近くなります。物語を提供する場を作りたい。それが僕の想いなので、その部分でも共感しました。そしてそれは自分の場所なんですよね。主人公珊瑚が自分の場所を造り出す物語としても、共感し心に響きました。

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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