『どこから行っても遠い町』(川上弘美)



図書館の読書会の課題図書として読みました。

電車の窓から町の風景を見るのが好きです。ごく普通の住宅地を飽きずに眺めています。立ち並ぶ家々の窓の向こうには住む人がいて、それぞれ「生活」があるのだろう。そんなことを思いながら、ぼーっと眺めています。
この本を読んで、ふとそんなことを思いました。
古い商店街のある町に住む人々の日常。日常と言えど、それぞれの形があり、それぞれの想いがある。狂言回しとなるような人物や場所を据えず、それぞれの話の登場人物が何となく繋がり重なる。人の営みが集まり町となる。人の想いが集まり町となる。
日常を描いているのにファンタジーじみて感じるのは、作者川上弘美の掌上に世界があり、作者のまなざしを感じるからでしょうか。そのまなざしは温かいのに、よそよそしく愛想ない。だから登場人物たちは、作者の掌上で思い思いの生活を営むのでしょう。
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『東京日記 卵一個ぶんのお祝い。』(川上弘美)

東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

川上弘美のエッセイは夢と現を行ったり来たりして、たゆたうような空気感が面白かったりします。この作品でも「五分の四くらいは、ほんとうです」とあるように日常を描きつつ、なんとなくどことなく違った空気が流れます。
引っ越し先の家が決まってお祝いに、納豆に生卵を一個割入れてみたり。打ち合わせに行けば、待ち合わせの店が見付からなかったり。突然「あら、よくってよ」という言葉を使ってみたくなったり。サイン会の礼儀について考えてみたり。猿について友達から注意を受けたり。川上さんの日常はたのしいです。

『光ってみえるもの、あれは』(川上弘美)

光ってみえるもの、あれは (中公文庫)

心の隙間にするりと忍び込んで来て、決して泣かせる場面でも泣ける場面でもない箇所で涙腺が刺激されてしまいました。何故だろう。
「ふつう」を自認する江戸翠16歳の夏。少し変わった母親と祖母との三人暮らし。遺伝子上の父親はたまにふらりと家にやって来る。小学生の頃からの友人は何故か急に思い立って女装するし、恋人は何故か急に冷却期間をおいてみようと言い出す。ふつうなんだけど、ふつうでない。のらりくらりとしているようで、何もかも受け止めて考えている。自由でありながら不自由。そんな青春の日々。
各章ごとに詩の一節が挿入されるのも面白いです。詩の持つ凝縮性と開放性が作品世界に合うのでしょうかね。

『ハヅキさんのこと』(川上弘美)

掌編集。恐らく雑誌掲載時は1~2ページ分だったのだろう分量。
昔の知人のことを、ふと思い出す瞬間。男と女の心の機微、中年と呼ばれる年代の恋情。それらを独特のたゆたうような筆使いで表す。特に後者は自分と全く離れた世界なのに、すっと心に沁み入る。これが巧さか。

『おめでとう』(川上弘美)

短編集。短く切り取られた世界が潔い。
川上弘美の魅力を説明するのは難しい。難しいのだけど、好きで読んでいる。
私がいて、あなたがいる。自分がいて、相手がいる。お互いの気持ちが触れ合って、心が揺れる。そして、読んでいる僕は少しさびしくなる。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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