『西巷説百物語』(京極夏彦)



今回の巷説は上方が舞台で以前も出てきた靄船の林蔵がメインとなると聞き、はてメインとなるような人物だったかなと思いましたが、するりと人の懐に入ってくる存在感があるのだかないのだかというのが魅力に思えました。
これはミステリでいうところの「倒叙もの」の手法ですね。犯人側の視点で物語が紡がれる。犯人というとしっくりと来ないものもありますが、犯人やら加害者が事件や世間や社会や人々をどう見ているのかが描かれています。
その視点は悪党のものであったり下衆のものだったりもしますし、世間とのズレに気付かなかった故の悲劇であったりもします。その事を起こしてしまった側の理屈や視点と世間の視点を繋ぐものとして怪異や妖怪があるのでしょう。あちら側に行ってしまった人の前に己の姿を映す鏡として妖怪が現れ、それでいいのか、こちら側に戻って来いと問いかける。そんな物語構造が美しいのです。
そしてこれはある種のキャラクター小説なのでしょうね。それぞれ得意技をもった人々がチームを組んでプロジェクトに取り組む。その痛快さも楽しみました。
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『チャックより愛をこめて』(黒柳徹子)



黒柳徹子がニューヨークに滞在していた一年間に雑誌に連載していた文章をまとめたもの。ドラマ「トットチャンネル」でこのエピソードを知りましたが、女優業を一年休んでニューヨークへ行くというのは、今の感覚よりも大変なことなのかも。それでもその大変さを微塵も見せずにニューヨーク生活を楽しみ、そこで感じたことを素直に書き表しているのはさすがです。
黒柳徹子の文章の面白さはその視点にあると思います。自分が経験したことを自分をも俯瞰視して、それでいながら自分の想いをありのままに表現する。そのため少し突飛な感覚も世間とのズレを認識しながら書かれているので受け止めやすく、その面白さが際立つのでしょう。
明日何をしようと考えるのが新鮮だったという感覚。自分とは違う人がいるという認識。嫌だなと思うことには嫌だなと思うだけの理由があるということ。そんな何でもないようなことが軽やかに書かれており、この当時のニューヨークに滞在してみたいという実現できない想いを募らせます。

『魔女モティ』(柏葉幸子)



お母さんとケンカして家出した紀恵は、しゃべる黒猫にスカウトされて元ピエロのニドジと共に魔女の家族になるのだった。魔女モティは魔女学校の落第生。面倒くさがりで皮肉屋な彼女の前には助けを求める人が現れるのだが、モティは魔法で解決できるのか?
柏葉幸子お得意のもうひとつの世界に入りこむ少女の物語。疑似家族を形成するのが面白いと思ったのですが、家族ごっこを堪能する前に物語がどんどん進んでいきました。
自分たちを放ったらかしにした母親の代わりの母親を欲しがる少女、古いホテルをめぐり対立する父と息子、母親に預けたままにしていた息子と一緒に暮らしたい元女海賊と、「家族」がテーマになっています。そんな騒動の中で紀恵自身の母親への想いが語られていきます。
まだまだこれから面白くなりそうというところで終わりになり(紀恵の物語としてはきちんと完結しているのですが)残念と思ったら、続編もあるのだとか。読まねば!!

『ブンダバー』(くぼしまりお)



古道具屋のおしじさんが拾ったタンスから出てきた黒ネコのブンダバーは、人間の言葉を話せるのだった。
ごきげんに楽しい物語。やんちゃで元気なブンダバーに引っぱられるようにぐんぐんどんどん読めます。
話せるネコというひみつをどうやって町の人たちに受け入れてもらえるかという展開も真っ直ぐでいいですし、そこから巻き起こる騒動とその結末も微笑ましくて素敵です。そして佐竹美保さんの挿絵がブンダバーの魅力を倍増しています。
10巻まで出ているシリーズの第1巻。導入部として楽しく面白く、早く続きが読みたくなります。

『ズボン船長さんの話』(角野栄子)



ケンは夏休みに海辺の別荘へ行き、そこでズボン船長さんと知り合う。船長さんの机の上には過去の航海で手に入れた宝物が並んでおり、船長さんはケンにそれぞれにまつわるお話をしてくれるのだった。
実にワクワクする物語です。ぜんそくの治療のために海辺の町にやって来たケンは、船長さんと出会うことで積極的になり健康になっていく。それは船長さんの語るお話に魅了され、自分も何かを成したいと思うようになったから。船長さんのお話によって目覚めた冒険心が、ケンの中で育っていく様子が素敵です。
船長さんの宝物も、オレンジ色の鳥の羽根のようなもの、柄の取れたなべ、コップに入ったどろんとした緑色のものなど、はっきりしないものばかり。そこからドキドキとワクワクの冒険譚が飛び出てくるのだからひき込まれずにいられません。
最後に新たな冒険へと出航した船長さん。色々と深読みすればできるのでしょうが、船長さんが旅立った新たな海は、ケンがこれから出航していく未来なのでしょう。未来への力強い一歩が感じられるラストでした。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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