『野川』(長野まゆみ)



長野まゆみ式正統派青春小説といった感じでしょうか。
両親の離婚と父の事業の失敗のために中学校を転校した主人公。その中学校の立地から付近の地形に興味を持ち、少し変わった先輩や先生に誘われて(騙されて?)新聞部の新たな部長となる。その新聞部では伝書鳩を飼育していた。
地形や地学の用語がさらさらと出てきます。ああ「ブラタモリ」で説明していたなあと頭の中で地形を思い描くのですが、はたしてきちんと再現できているのやら。それでも頭の中で野川が流れ土地が隆起し形作られて来るのです。
文章で表されているものに血肉を与え形を成すもの、それが経験であり知識なのでしょう。そして知識というものは人の中に体積していくものなのだなと実感させられました。
それは作中で語られる蛍の逸話にも表れています。他人の経験を聞くことで我がものとすること。それは何故小説を読むのかという答のひとつではないでしょうか。自分ひとりでは経験し得ないものを疑似体験し我がものとして肥やしとする。直接的に実用のためになることは少ないでしょうが、そこから芽を出すものもあるでしょうし、発芽を促すものとなるものもあるでしょう。それが小説の(物語の)力なのでしょう。
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『メルカトル』(長野まゆみ)



地図収集館で働くリュスの周囲で、次々と起こる不可思議なできごと。何ともお洒落なおとぎ話。
傍若無人な人がやって来ては無理難題を押し付ける。リュスは断ることもせず、流されるがごとく巻き込まれていく。しかしその無理難題には裏があり…
そんなバカなという展開を、さもありなんと見せるのが長野まゆみの世界なのでしょう。道具立てから登場人物なにもかもが作られた世界ならではの艶やかさに包まれています。きらびやかなんだけれどシックなビジュアルが浮かび上がってきました。この世界にどっぷりとひたれるかどうかが、この作品を楽しめる鍵となるのでしょう。舞台劇のような感覚をたっぷりと楽しみました。

『となりの姉妹』(長野まゆみ)

近所の小母さんが遺した謎めいた符号、隣家の姉妹の元に現れる間借り人、ふらふらとしていて達観しているような兄。とうとうと流れる水のような文章に揺られて、どこでもない場所へと連れて行かれます。
流れに揺られるのがなんとも心地いいんです。ちょっと懐かしいような、それでいて丁寧な生活の描写が心地よさを増してくれます。
謎に明確な答えは与えられず、結局どういうことだったの? という幕切れとなりますが、それすらもまた心地いいんですな。

『カルトローレ』(長野まゆみ)

カルトローレ (新潮文庫)

難解でなかなか読み進められなかったけれど、作中に散りばめられた要素のひとつひとつが魅力的で堪能しました。
大空を航行する<船>で悠久の時間を過ごす人々、ページを糊付けされた航海日誌を解析することになった<船>から降りた青年、航海日誌から芽吹いたつる草、沙漠の民の暮らし、魅惑的な食べ物、織り込まれた刺繍模様、幾重にも折り重なる記憶、などなど。文章で紡がれる綾模様に酩酊されるようでいて、絵画的に思えるのが面白いです。美しい映像が頭の中に広がるのに、いざ映像化しようとすると何も思い浮かばないような読後感でした。

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

『白いひつじ』(長野まゆみ)

白いひつじ

同じ大学の男子学生が集まる寮を舞台にした物語を長野まゆみが書くとなれば、絶対こういう展開が待っているだろう。という期待通りでもあり、期待をいい意味で裏切るものでもあり。
主人公の鳥貝の煮え切らなさや、百合子のひねくれ具合にイライラさせられつつも読み進めていくと、彼らをスンナリと受け容れている自分に驚かされます。それは鳥貝が百合子を受け容れていくのと同調して物語世界にのめり込みます。
個性的な人物や魅力的な寮がちらりとしか出てなかったので、続きを読んでみたいですね。

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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