『狩人の悪夢』(有栖川有栖)



人気ホラー作家白布施に誘われ、そこで眠ると必ず悪夢を見るという部屋のある「夢守荘」に泊まることとなったアリス。その翌日、白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」で右手首が切断された女性の死体が発見されるのだった。

作中で探偵役の火村がこの事件のことを「散らかっている」と称するように、様々な要素が次々と出てきます。突飛な凶器、壁に残された血糊の手形、被害者につきまとうストーカー、被害者と繋がりのあった今は亡きアシスタントの過去、もうひとつの死体とそこに残されたものなどなど。それらを元に組み立てられる推理の流れは、ひとつの流れが複数に分かれそれぞれがそれぞれの動きをしながらまた合流するような散らかり具合があります。
あとがきで元々この作品を倒叙もののスタイルで書こうとしていたとあるのですが、この散らかった流れは犯人側から描写されると慌てふためく様子を含めて面白そうな気もします。最後の火村の推理の流れの突飛さと着地点の美しさは倒叙の形でも活かせるような気もします。一度成立させた推理をある時点で捨て、それを後からもう一度本流に戻すことで活かすというやり方はその最たるものかも知れません。推理を披露する場面ではそういう倒叙ものが持つ緊張感があったような気もします。しかしそうなると犯人の動きに限定され、それ以外の部分の膨らみがなくなってしまうのでしょうか。もしかすると倒叙ものの楽しみも併せて楽しむものになっているのかも知れません。
僕にとって有栖川有栖は本格ミステリの教科書のような存在なのです。「本格ミステリとはなにか?」という問いに対する答が「有栖川有栖の作品」なのです。それはトリックや動機の奇抜さではなく、推理の流れの美しさなのです。その意味で今作では本格ミステリの本流の魅力を再認識させられました。
またアリスと火村の関係性が改めて書かれているというか、火村の抱える悪夢に対してアリスが一歩踏み込むシーンに少し驚かされました。これはあの「ドラマ化」の影響なのでしょうかね。何にせよミステリ部分以外も楽しめた作品でした。

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『鍵の掛かった男』(有栖川有栖)



作家アリスシリーズ長編最新作、ようやくやっと読むことができました。
中之島のホテルで首を吊って死んでいた男。彼は5年に渡りホテルに滞在していた。彼の死に疑問を抱いた作家より彼の死は果たして自殺か否かを調査するように頼まれたアリスは、男の素性を調べ始めるのだった。
提示される謎はシンプルです。まずは自殺か他殺か? つまり事件としてまだ成り立っていない箇所からのスタートになります。謎としては地味かもしれません。しかしそこを魅力的に見せてしまうのはさすがと言うべきでしょうか。調査もホテルの支配人や従業人、そして当日ホテルに滞在していた人々から話を聞くこと。薄皮を一枚一枚剥がすように男の真相に近付いていく様も地道の一言です。読みながらいつもの有栖川有栖の作品とは違うものを味わっていました。地道な調査に夜事実を重ねる手法は宮部みゆきなどの社会派の手法も思わせました。この題材を作家アリスシリーズ(火村シリーズ)という「本格ミステリ」で書いた意味はどこにあるのだろうとの思いも抱きました。しかし明らかにされる事実と事実が繋がり合う偶然、そして偶然と偶然が繋がり合って必然となった時に、本格ミステリの快感がありました。そしてラストにそこしかないという着地点に至る道筋の美しさ、本格ミステリの魅力を充分に堪能しました。
有栖川有栖は以前より東京により戯画化された大阪でない大阪の魅力を伝えてくれていますが、今回もまた中之島を通して大阪の魅力も語られています。大阪小説としての魅力も大きくあるでしょう。中之島が好きな身としては嬉しいですね。

『幻坂』(有栖川有栖)



とある会合で紹介するために再読しました。
改めて読んでみると、大阪出身のミステリ作家有栖川有栖が、天王寺七坂を舞台に怪談を書く。そのひとつひとつが絡まり合いなんとも言えない効果を生んでいるのだと実感します。
ミステリという論理の物語を書く作家が、不条理の物語である怪談を書く面白さ。天王寺七坂という大阪の根幹となる場所を舞台にすることで現れる、大阪を描く面白さ。それは大阪の歴史とつながり、ラストの時代小説で昇華されます。
この天王寺七坂が素敵なんですよね。大阪では珍しい味わい深い坂、しかも歴史に裏打ちされた坂です。是非とも「ブラタモリ」で取り上げて欲しいと思うのですが、それはまた別の話ですな。

『怪しい店』(有栖川有栖)

作家アリスシリーズと認識していましたが、最近は火村英生シリーズという表記をよく見ますな。

「店」をテーマにした短編集。骨董品店、古書店、理髪店、そして怪しい店も。テーマを限定することでパターン化するどころか、ミステリとしての幅が広がっているのはさすがです。ミステリとしては掟破りの犯人特定やら、日常の謎っぽいものやら、倒叙ものに安楽椅子探偵めいたものまで。今回もミステリの面白さをしっかりと味わいました。
お気に入りは「潮騒理髪店」潮騒の聞こえる海辺の古めいた理髪店を舞台にしているだけでも素敵ですし、火村准教授の日常が垣間見れるのが趣き深いです。

『菩提樹荘の殺人』(有栖川有栖)

菩提樹荘の殺人

何度も言ってますが、有栖川作品は僕にとってミステリの教科書なんです。今作も地味ではありますが、本格ミステリの核となる部分を内包していて面白かったです。
少年法とマスコミを扱った「アポロンのナイフ」は、動機に戦慄しました。お笑いの世界を舞台とした「雛人形を笑え」は、後味悪いのに爽やかというこの作家ならではの読後感でした。火村准教授の大学時代を描いた「探偵、青の時代」はシリーズ物ならではの面白味です。表題作「菩提樹荘の殺人」はオーソドックスなフーダニットだけにミステリの面白みに満ちています。
帯に「火村英生シリーズ」とありますが、これには違和感。やはり「作家アリスしりーず」でしょう。とか思うのですが。そろそろ長編も読みたいですね。長編は国名シリーズになるのかな

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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