『雨の日にも神様と相撲を』(城平京)

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相撲を愛する両親の元で相撲の知識と技術を教え込まれた文季が転校したのは、相撲好きのカエルの神様が崇められる村だった。小さい頃から相撲漬けの日々を送って来たため相撲の知識や技術だけでなく、相手の動きを見て対応策を考えることまでできるようになった文季だが、如何せん身体の小ささが災いして対戦成績はイマイチパッとなかった。しかしその能力をカエルの神様に見込まれ、村を治める一族の娘真夏を通じて神様に相撲を教えることになるのだった。
なかなか突飛な設定ですが、すんなり読ませられます。身体が小さいからこそ相手の一挙一動を見て対応する必要があり、それが文季の思考の全てを表わすことになっているのが面白いです。なので隣村で起こった死体遺棄事件に関してもその能力を活かして刑事である伯父に自分の考えを述べることに繋げるのも、突飛ながらも面白いです。しかしまあこの事件の部分は物語のメインではないのですが。
物語終盤に至る伏線の回収とどんでん返し、そこにこそこの作品のミステリ的面白さとしての醍醐味があるのでしょう。そして事件の真相の一部に気付かなかった文季が同じく見落としていたもの。その提示のされ方や落とし処が実に爽快なのです。なるほどこれこそミステリの面白さと膝を打ちます。
そこに身体の小さい文季と身体の大きい真夏。村を治める一族に課せられた運命。相撲に愛された文季が己の相撲で得たもの。ふたりのそれぞれの想い。そんなキャラクターが織りなす関係性が実に巧妙に絡み合って青春小説の妙があります。そこがミステリ的爽快感と相乗関係となって物語を盛り上げてくれます。
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『ピースメーカー』(小路幸也)



赤星中学校は運動部と文化部の総合顧問の先生のいがみ合いからトラブルが起きていた。そのトラブルに対して架け橋となり平和をもたらす「ピースメーカー」となるのが放送部のふたりだった。
これは実に楽しい物語です。中学校の放送部の楽しさ、放送部の利点アレコレを使っての情報収集、そしてトラブル解決のカタルシス。それらが魅力たっぷりに書かれています。
短めの話がポンポンと詰められています。トラブルがあり情報収集があり解決策が思い付いたところで、ポンと結果は後日談として語られます。そのためテンポよく読めるのですが、登場人物たちとともに解決を経験するという部分では物足りなさもあります。しかし一番山となる事件に関しては、それこそ生実況の如く同時進行で書かれしっかりと味わうことができます。この辺りのバランス感覚は作者の他の作品でも感じますが巧いですね。
キャラクター設定から話の展開まで都合が良過ぎるとも思えるでしょうが、そんなことを指摘するのは無粋というもの。この楽しさを一緒になって満喫しましょう。1974年という40年以上前を舞台としているため、ある種のファンタジーとして味わうこともできるかも知れません。だからこそ楽しいことの抽出でいいのじゃないかと思わされるのです。これは現役中学生にも学園生活の楽しさを加味するものとなるのではないでしょうか。
対立する先生の子ども同士の恋愛、剣道部代表選抜の八百長疑惑、お昼の放送でのロック禁止令などなど。学内のトラブルをピースメーカーが解決します。

『ルーディーボール エピソード1シュタードの伯爵』(斉藤洋)



顔は動物、体は人間というキャラクターたちが繰り広げる冒険活劇。閉ざされた村で盗賊家業をしている主人公ラックスたちは、ある時襲撃した馬車から大量の金貨を見付ける。その金貨を両替するために身分を偽り首都を目指すラックスたちは、ある陰謀に巻き込まれるのだった。
もう無茶苦茶面白くてむさぼるように読みました。まずは主人公の三人組の素敵なこと。素直な猫顔のラックス、熱血漢の犬顔のインギースク、知恵者の兎顔のバーサル。三人の友情の物語としてだけでも読んで楽しいのです。
状況や社会情勢についてピンと来ないラックスにバーサルが説明するという形で、舞台となる世界の仕組みや政治形態などが読者にも知らされます。いわゆる地の文での説明がないため、読者はラックスが知ることを知り知らないことは知らない状態で読み進めることになります。それがために綿密な説明が折々に挟まれるにも関わらずどんどんストーリーが展開されます。
ただ旅をリードするバーサルの考えも読者には伝えないので、はじめは回りくどく感じる部分もあります。しかしそう思う全てのことが、その後の展開に繋がるという爽快さ。伏線はここにも張られていたのかと膝を打ちます。
そんな綿密な伏線があるが故にラストの大きな流れもすんなりと受け入れ、もっとこの物語を楽しみたいという思いに駆られるのです。しかし10年前にエピソード1が出て依頼、未だに続刊は出ていないのです。ああ、なんということだ。講談社は是非これをマガジンでまんが連載してアニメ化して続きも出して下さい! と切に願うのです。

『ふるさとは、夏』(芝田勝茂)



夏休みを父親のふるさとでひとり過ごすことになったみち夫は村に馴染めずにいた。バンモチという伝統行事が行なわれた夜、みち夫と村の少女ヒスイの前に白羽の矢が突き刺さる。神社ごもりの介添えに指名されたみち夫は、白羽の矢を巡り村の神さまたちと出会うのだった。
はじめ村社会に馴染めないみち夫の気持ちに同調し息苦しくなりました。村に馴染めないのはみち夫が馴染もうとしないからである。それはそうなのですが、東京からひとり否応なく知らない村に放り込まれ、さあ馴染めというのも酷なものです。
そのみち夫の孤独さのようなものを表わすのに、方言がとても効果的に用いられています。みち夫が意味が分からず問うたものはその意味が答えられるのですが、ほとんどのものが注釈などなしにがんがんと浴びせかけられます。読み進めていくと物語の中でみち夫がそうであるように、ニュアンスがわかるようになるのですが、それまでは自分が異分子であることを感じる、そんな役割があります。
そんなみち夫の孤独感と寂寥感を癒す…というか逸らしてくれるのが村の神さまたちなのです。いわゆる土着の神さま。村の歴史に則したものから生まれるその土地の信仰。そんな神さまがごく当たり前のようにみち夫の前に姿を現し語りかける。そのごく当たり前のようなことが他者を受け容れることと知るみち夫は、自分の見てきた世界と違う世界があることを知ります。そのみち夫の心境は読み手にも繋がり、いつの間にか方言が気にならずに読めることになっていることにも気付かされます。
それは何も異界との境界の問題だけではないのでしょう。生きていく中で出会う自分とは違うもの。それを自分の中にどう受け容れるのか。構える必要はない。ただ挨拶をするように自然に受け容れる。それは簡単でありながら、難しいことでしょう。そのことが村の娘ヒスイとの出会いや、白羽の矢をうったのは何者かという謎と絡み合い、ひと夏の不思議な経験という形で示されています。それが物語の面白さであり、物語がもつ力なのでしょう。

『藍の空、雪の島』(謝孝浩)



ある日ワンディの住む街に戦車に乗ってやってきた黒服の男たち。彼らはワンディたち街に住む人たちを追い出し、とある村に監禁するのだった。
故郷を追われた少年とその家族の物語。黒い服を来た人たちに故郷を追われ労働を強いられる。黒い服の人たちが別の緑の服の人たちに攻撃されている隙に逃げ出す。隣の国に行き、そこでの暮らしが落ち着くかに見えた時また逃げ出さねばならなくなる。途中家族離ればなれとなり、川賊にさらわれる。難民キャンプへと辿り着きイープンへと行く手続きを経て旅立つ。そんな波瀾万丈な出来事が肉薄しつつも、淡々と語られます。
あくまで少年の視点で書かれるので、政治情勢などはほとんど描写や説明がありません。黒い服の人たちはどういう人たちなのか。なぜ故郷を追われなければいけなかったのか。隣国から身を隠すように逃げ出した理由。ワンディはそんなことよりも今を生きること、家族や友達とともにいること、そのためだけに足を進めます。移りゆく土地で出会う友達。なんでもないようなことが喜びになること。信じた人に裏切られること。様々な経験がワンディを通り過ぎていきます。それは余りにも大きく強い流れで、少年の身には抵抗する術もなく押し流されてしまいます。しかしワンディはそこで起こったことを胸に刻み自らの糧へとしていきます。大きな流れはわからなくとも、今自分は何をすべきなのか、どう思うのかを自分でしっかりと考えます。だからこそラスト成長したワンディはある決意をするのです。そんなワンディの目を通すため、つらく悲惨に思われる物語に突き抜けた青空のような爽やかさが伴うのでしょう。
帯の池澤夏樹の推薦文に「ポルポト政権のカンボジアで育った少年の遍歴の記録」とあり、ワンディを取り巻く状況を推し量ることができます。また詳しいことを調べることもできるでしょう。昨今難民と呼ばれる人たちへの侮辱的な言葉が飛び交うこともあります。まずは知ること。その入口にもなる物語でしょう。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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