『実験4号』(伊坂幸太郎×山下敦弘)



Theピーズの「実験4号」を元にした小説と映画のコラボ作品。それぞれが面白く、ふたつ併せるとまた面白みが増す。どちらを先に手にするかで印象が変わるかも。

「後藤を待ちながら」(伊坂幸太郎)
売れないロックバンドの物語。ギターの後藤が火星へと行ってから3年。ベースの柴田とドラムの角倉のふたりは火星からのロケットが着くたびに後藤が帰ってくるのではないかと見に行くが、後藤は現れない。
伊坂作品お馴染みのどうしようもないのだけど何故か憎めない男が描かれています。Theピーズのインタビューの挿入の仕方や、伏線のはり方、終盤のまとめ方まで見事に決まった作品でした。

「It 's a small world 」(山下敦弘)
小学生3人と先生ひとり、用務員(?)ひとりだけの地球の学校で、卒業して火星へと旅立つ少年の物語。
何故学校に住んでいるのかなど背景説明がほとんどないのですが、そんなことお構いなしに引き込まれました。
BGMを用いない落ち着いた画面と、子どもたちの自然な演技により、まるでドキュメンタリー作品を見ているかのような気持ちになります。いつも通り朝を迎え、いつも通り友達とふざけているが、もうすぐ別れがやってくる。そんな心情を単純な言葉や涙で見せるのでなく、淡々と描いて、素敵なジュブナイル作品になっていました。
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『PK』(伊坂幸太郎)

何も先立った情報なしで読んだので、その意外性に驚きました。3編の物語がそれぞれ作用し合って繋がっています。それはまるで大きな物語をバラバラに分解して三分割して組み立て直したかのような印象です。
不調だったサッカー選手が決めたPK、浮気した作家、落下してきた幼児を受け止めた政治家、作品の修正を求められた作家、未来の犯罪者を告げるメール、他人の6秒をすり取る握手。それぞれの要素があちらこちらに絡み合い作用し合って、物語を組み立てます。全く関係のない話に思えていたものが、根幹を成すものとなります。それが快感を呼びます。
しかし、四角四面にきれいに収めるのでなく、どこかスキ間やいびつなところがあるんです。それが味になるのが、伊坂幸太郎の魅力ですね。

『バイバイ、ブラックバード』(伊坂幸太郎)

バイバイ、ブラックバード

とある理由からとある組織に「あのバス」で連れ去られてしまうことになった星野。彼は連れ去られる前に付き合っていた5人の女性に別れを告げるために、組織からやって来た謎の大女・繭美と女性たちの元に行くのだった。
クールでかっこいい装丁から、そういう話だと思って読み始めたらスラップスティックコメディでした。5股を掛けていた男が、この人と結婚することになったから別れてくれと告げる物語なのですが、その「この人」が暴力と暴言の固まりのような大女なのですから。しかし話の展開は実に伊坂幸太郎的なのですね。細かいセリフのひとつひとつにまで物語上の意味を持たせてしまう。その展開の小気味よさを味わえます。それでいて大きな謎は放ったらかしというのもいいです。
また星野と繭美という人物造形が面白いのですね。先の計算をせず、その時の思いのまま動くため二進も三進も行かなくなる星野。初めはどうしようもない男というイメージを持ちますが、読み進めていく内に「悪い人じゃあないんだけどねえ」「いや、いい人ではあるんだけどねえ」と印象が変わります。さすがは5股ができる男。そして作中で怪獣的な扱いをされる繭美に至っても、読み進める内にちょっと好意を抱いてしまうんです。これは星野の目から繭美を見ているからでしょうか。そしてその好意を抱く原因は、星野自身の人の好さに由来するのかも知れませんが。
で、あちこちで書かれていましたが、僕も繭美はマツコ・デラックスしか脳内に描けませんでした。それしかないでしょ。うん。

『SOSの猿』(伊坂幸太郎)

SOSの猿 (中公文庫)

他人が発するSOSを無視できない悪魔祓いの男と、億単位の損害を出した株の誤発注事件を調べる生真面目で論理的な男。ふたりの前に姿を現す孫悟空。それらが行き着く先は?

なるほど、これは「よく判らない」と評される内容ですな。バラバラのピースが全て納まるべき所にピタリとはまり別の絵が浮かび上がる。というのが初期伊坂作品の特徴だとすれば、今作はバラバラのピースがはまる場所はここかも知れないし、あそこかも知れない。ここでもいいし、あそこでもいいという曖昧なもの。しかもはまらずに放っておかれるピースもある。いや、だからこそ面白く膨らみがあると僕は受け取りましたが。
唯一無二の答えを導き出すのが小説の役割ではなく、想像と論理の膨らみを持たせることのできるのが小説の面白味なのかも。物語は人を救うのです。

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

『オー!ファーザー』(伊坂幸太郎)

オー!ファーザー

父親が4人いるという設定だけでも面白いのですが、作者お得意の伏線の張り方がいいですね。あれもこれもそれもかも伏線に思えてしまい、実際ラストに掛けて全てが絡み作用し合う様は爽快感があります。
ただストーリー展開自体は、伏線回収が優先されているような気もします。どんどん都合良く進んで行くのが疾走感にも通じるのですけどね。
そんなことより何より、ストーリーに乗っかり楽しむエンターテインメントと捉えるのがいいのかも知れませんが。

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プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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