『世界は変形菌でいっぱいだ』(増井真那)

世界は変形菌でいっぱいだ
世界は変形菌でいっぱいだ

出逢いはEテレの「カラフル!」でした。そこで変形菌が友達だという少年が出てきたのです。幼い頃に知った変形菌に興味をもち、自ら採取して飼育して専門家の先生とともにフィールドワークする姿が映し出されていました。
なんて素敵な少年なんだと思っていたら、現在高校生となった少年は今でも変形菌の研究を続け変形菌の本を出したということを知ったのです。それがこの本の著者増井真那さんだったのです。

写真を多く掲載し変形菌のことがわかりやすく紹介されています。専門家の人が書かれる本は専門家の人にとって当たり前のことと一般の人の当たり前に差異が生じ、そのためにわかりにくくなるものもあります。しかしこの本では普段変形菌と接していない人はこういう部分がわからないだろう、知らないだろうというポイントがしっかりと押さえられており、そこをフォローしつつ進むのでわかりやすかったです。
5歳の時に変形菌に出逢って興味を持ったという話からはじまり、変形菌とはそもそも何なのか、普段変形菌とどのように接しているのか、それを通じて変形菌の魅力を今一度伝え、現在行なっている研究の内容という流れがとてもきれいなんですね。だからわかりやすい。
そこはやはり変形菌に対する愛なのだろうと思うのです。好きだから知りたい。好きだから他の人にも知って欲しい。そんな思いで今まで数多くの人に変形菌のことを伝えてきたのだろう。だからこんなにもわかりやすく伝えられるのだろう。そう思わせる記述がそこかしこにあるのです。

興味を持って好きになる。そのことがこんなにも世界を広げる。そのことがこんなにも輝かしい。変形菌を通じてそんなことも思わされました。
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『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』(宮崎駿)

本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)
本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

あの宮崎駿氏が岩波少年文庫からお薦めの50冊を選び、それぞれにメッセージを添えられています。自分の思い出に因ったものもあれば、とにかく読め!というもの、自分は読んでないもしくは読めなかったけどいいはずだというものまで。
挿絵についても言及されているのが、らしいなとも思ったり。E.H.シェパードがアニメーターになったらいいとか、「床下の小びとたち」の挿絵の印象など。様々な角度から岩波少年文庫を検証しまとめられています。
謂わば岩波少年文庫の宣伝媒体なのですが、それでも読み物として面白く読めるというのは宮崎駿という人物の面白さなのでしょう。
「児童文学はやり直しがきく話である」という言葉が印象的です。なるほどだから児童文学はつらく厳しい状況の物語でも、どこか希望を感じられるのですね。希望を感じさせる物語が児童文学だと思っていましたが、その希望の理由を知った思いです。
もちろん「やり直しのきかない話」での児童文学の名作もあります。それでも子どもたちには希望を与えたいと思うのが大人なのかもしれません。「この世には面白いことがいっぱいある」そのことを子どもに伝えるのが大人の役割だとずっと思ってきました。それを後押ししてくれるのが児童文学なのだと改めて心に沁みいったのです。
それは「3月11日のあとに」と題された最終章にも示されています。今児童文学を読んでいる子どもたちが新たな未来を築く。そのことをこんなにも力強く言えることが素敵だと思うのです。

『コンビニたそがれ堂』(村山早紀)



風早の街の駅前商店街のはずれに夕暮れになるとあらわれる、不思議なコンビニ「たそがれ堂」。大事な探し物がある人は、そこで必ず見付けることができるという。
もの言わぬものの想いをくみ取り、過去から未来へと橋渡ししてくれる。そんな物語でした。受け取れなかったメモ帳、大切なリカちゃん人形、人々を見守る桜などなど。それらの想いが押し付けがましくなく届けられます。
元々は児童書の体裁で発行されたものですが、扱うテーマは重いものもあります。それもまたさり気なく描写されているので、子どものころ読んでも気付かないこともあるでしょう。しかし宿った種はある時芽吹き、その人の心に花咲くこともあるのではないでしょうか。そんな小さな種がたくさん詰まった一冊でした。

『江ノ島西浦写真館』(三上延)



江ノ島にある写真館そこの女店主が亡くなり店を閉めることとなり、孫娘の繭は整理のために久し振りに写真館を訪れる。写真家を目指していた繭はとある出来事が元で、写真からは身を離していた。整理を始めると「未渡し写真」と貼紙のある缶が出てきた。そこにあった写真が秘めたものとは。
「ビブリア古書堂」でお仕事ミステリのブームを生み出した作者による作品。閉ざされた古い写真館を舞台に、過去と現在が繋がります。写真というのは過去を閉じ込めたもの。その一枚に景色だけでなく人間の感情も時間も何もかもが込められるのでしょう。だからミステリの題材として扱いやすいものなのかも知れません。そこに写真の専門知識を謎を解きほぐす鍵として用いる。お仕事ミステリの模範となるようなきれいな型が出来上がっています。
そこに出て来る人物誰も彼もが謎を心に秘めており、それらによって物語が紡がれていきます。主人公の繭の謎で引っ張っていくのかと思いきや、序盤でその謎は開陳されます。でもそこを解放することによって、後の人物同士の関係性が生まれるのだから面白いです。
全体的にセピアが掛かったようなおとなしめの印象ですが、それが凛とした印象へと移りゆく様子も楽しめました。

『はるかな空の東 クリスタライアの伝説』(村山早紀)



20年前に発行された作品です。作者自身による挿絵のタッチも相まって、懐かしい雰囲気に溢れています。この懐かしさは20年前のエンタメ作品を知っている者の感覚でしょう。(20年前でも懐かしい感じがしたのかも知れません。20年前の段階で既にお馴染みとなっている感覚なのかも)しかし20年を経た今になってこの作品が文庫化されたのです。現在の新たな読者の目にはこの物語はどのように写るのでしょうか。
異世界ファンタジーの魅力的な要素がこれでもかと詰め込まれています。善神と邪神の争いの伝説、歌により人々を癒す歌姫、邪神を復活させようとする魔女、囚われの姫と人間世界に避難させられた姫、目覚める秘められた力などなど。それはきっと作者が描きたいことを全て詰め込んだ結果なのではないでしょうか。だからと言って全体が大味になることもなく、広大の世界観の中で行なわれた事件と物語という形がしっかりと見えます。きっとまだ語られていない物語がこの世界にあるのだろうという気にさせられ、物語の終わり以降の広がりを感じます。
その世界観の確実さはは時代を超えるものだから、きっと今の読者の心にも響くものとなるのでしょう。そしてこの文庫化が成功したならば、20〜30年前の様々なファンタジー作品の復刊も期待したりもするのです。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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