『ぼくのしょうらいのゆめ』(アンソロジー)



少年時代の思い出を語りながら、今の仕事に携わるきっかけを述べる。執筆者は、市川準、内田裕也、大竹伸朗、関野吉晴、祖父江慎、高橋悠治、田中泯、谷川俊太郎、野口聡一、船越桂、吉本隆明、和田誠。
その職業になりたくてなりたくてなった人。職業としてではなく、ただやりたいことをやり続けていた人。いつの間にか何故かなっていた人。それしかなかった人。「将来の夢」とタイトルにありますが、現在の仕事に対する想いは人それぞれです。何が人生のターニングポイントになるかわからない。あの人のあの一言がなければという明確な形もあれば、生まれてきてから今までが全てターニングポイントだったというのまであります。
何かを成し遂げた人の話は専門外でも面白いものです。そして子ども時代は誰にでもあったこと。だから全くの他人事でなく読む部分も出てきたりもするのが面白かったりもします。
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『片隅 』02(伽鹿舎)



とある企画で不意に手にした本は九州限定に配本された文芸誌でした。
谷川俊太郎と茨木のり子の詩に挟まれて、様々な小説が並びます。ここでもまた、ここでしか出会えなかったろう作家との出会い。ジャンルが定められている訳でないので、読み始めてもしばらくは曖昧模糊とした中を手探りで進むような感覚。人物は? 世界は? そんなことを思いながら読み進めることの面白さ。思いも寄らない世界へと連れて行かれる快感。そんなものを味わいました。
その中で不意に現れた「さくら奇譚」(菅野樹)先に収録されていた作品の流れから、何となく思い込んでいた流れと全く違うある種の怪異譚に翻弄されました。
そして「ひとひらスヴニール」(梶尾真治)『エノマン』のシリーズは読んだことがないのですが、そんなことは関係なしに世界に引きずり込まれました。そしてその世界には上下左右360度広がりを感じさせられました。大きな世界を切り取ったもの。だからこそページ数以上の濃密な世界に浸り、小さな穴から広い世界を覗き見しているような面白さがありました。
この本のことはネットで見聞きしていました。こういう本があるのだということは知っていました。しかし実際に手に取ってみると、その大きさ重さ紙質手触りその全てで本なのであるという当たり前のことに気付かされたのです。そんなこんなと色々な当たり前でありながら忘れがちなことを思わされる本でした。

『空からおちてきた男』(ジェラルディン・マコックラン)



飛行機の故障で沙漠に墜落したカメラマンのフラッシュは、文明から隔離された村に辿り着く。その手にあるのはインスタントカメラのみ。残っているフィルムは10枚分だけ。
今までの価値観とは全く異なる世界に放り込まれた時、人は何を拠り所とするのか。フラッシュの手にはインスタントカメラがありました。はじめ怖々だった村人も次第にフラッシュが何を撮影するのか気になり、また撮影してもらいたくもあり彼の元に集まります。カメラマンとして今まで数限りなく撮影して来たフラッシュだからこそ、限られたフィルムで何を撮影するか。それは何に価値を見出すか。今までとまるで違う価値観を見出す自分に気付く。佐竹美保のイラストで表される写真も素敵なのです。
最後に現実と非現実が曖昧になるような描写もありますが、基本は真っ直ぐな物語です。フラッシュの素直な感覚がそのまま読後感につながります。

『私の銀座』(「銀座百点」編集部)



「銀座のかおりを届ける雑誌」として刊行されている『銀座百店』。そこで掲載されたエッセイを集めたもの。執筆陣が作家はもちろん、映画監督、俳優、などなど多彩で、それこそ「銀座」に象徴される絢爛豪華なオールスター然として面白いです。
内容は銀座に関する思い出が大半を占める中、そうでないものも多く見られ、どういう基準で選ばれたのか不思議に思う部分もあります。古い時代のものから順に掲載されているので、時代の移り変わりを見るのも面白いです。しかし古い時代のものでも時代が変わったことを書かれたものも多く、人は思い出に生きるものなのかとの想いを抱いたりも。そんな中で銀座は変わらないものとしての象徴であり、変わりゆくものとしての象徴でもあるのが面白いですね。それだけそれぞれの銀座への想いは強いということでしょうか。そしてまた同じく銀座を書かれたものでも書き手によって街を書いているものと、書き手自身を書いているものがあり、書き手の個性も見て取れます。
僕自身銀座は数回遊びに行った程度ですが、それでも素敵な街だという印象が強いですね。シュッとした感じでいながら懐深くどんな人でも受け容れるような感覚を抱きました。ただぶらりと歩くだけでも楽しいのですね。だからこそ「銀ぶら」という言葉も生まれるのでしょうね。

『子どもにかかわる仕事』(汐見稔幸・編)



子どもにかかわる仕事をしている人が、自分の仕事について語るアンソロジー。登場するのは、助産師、小児科医、保育士、小学校教員、中学校教員、学童クラブ指導員、養護教諭、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、フリースクール主宰、家庭裁判所調査官、弁護士。それぞれの仕事の内容や大切にしていること、そして子どもたちに対してどう向き合っているかが語られます。
この本は岩波ジュニア新書で発行されています。それが意味することは何かと考えます。中高生が読者ターゲットとなる訳ですから。読者自身がまだ「子ども」といえる訳ですから。そこには世の中の大人の中にはこうやって子どもたちと本気で向き合っている人がいるのだよと伝えたいという想いもあるのかも知れません。
そしてこの本は大人に、それも今子どもたちとかかわっていない大人にこそ、読んで欲しい本だと思ったのです。子どもに人的労力や時間を掛けることを贅沢である、子どもたちを甘やかすことになると感じる人は少なからずいます。子どもは放っておいても勝手に育つ。子どもの問題に大人が介入する必要はない。そんな風に思っている人もいます。そして子どもは大人のいうことを聞くべきだ。大人は子どものやることを決めるべきだ。そんな風に思っている人もいます。そんな人たちに子どもに対して本気で向き合ってかかわっている人たちの活動を知って欲しい思いがあるのです。これを読むと子どもへ向ける目が少し変わるかも知れない。そんな風に思えたのです。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




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