『江ノ島西浦写真館』(三上延)



江ノ島にある写真館そこの女店主が亡くなり店を閉めることとなり、孫娘の繭は整理のために久し振りに写真館を訪れる。写真家を目指していた繭はとある出来事が元で、写真からは身を離していた。整理を始めると「未渡し写真」と貼紙のある缶が出てきた。そこにあった写真が秘めたものとは。
「ビブリア古書堂」でお仕事ミステリのブームを生み出した作者による作品。閉ざされた古い写真館を舞台に、過去と現在が繋がります。写真というのは過去を閉じ込めたもの。その一枚に景色だけでなく人間の感情も時間も何もかもが込められるのでしょう。だからミステリの題材として扱いやすいものなのかも知れません。そこに写真の専門知識を謎を解きほぐす鍵として用いる。お仕事ミステリの模範となるようなきれいな型が出来上がっています。
そこに出て来る人物誰も彼もが謎を心に秘めており、それらによって物語が紡がれていきます。主人公の繭の謎で引っ張っていくのかと思いきや、序盤でその謎は開陳されます。でもそこを解放することによって、後の人物同士の関係性が生まれるのだから面白いです。
全体的にセピアが掛かったようなおとなしめの印象ですが、それが凛とした印象へと移りゆく様子も楽しめました。
スポンサーサイト

『過ぎ去りし王国の城』(宮部みゆき)



宮部みゆきは逃げません。世に満ちる悪意から暴力から、人の持つ厭な部分から、どうしようもない悲劇から。だから読むとしんどい思いもします。ああ、その箱を開けるのか、その思いを開陳するのかと。
しかしただ露悪的に悪意を書き綴っているのではありません。打ちのめされるけれど、それがこの作品の目的ではありません。芯の部分には優しさがあります。だからつらいだけではない読後感があります。どうしようもないつらさの向こうにある希望を見せてくれます。それは作者自身の願いかも知れません。そしてつらさを書きながら希望を感じさせることは、物語が持つ力なのでしょう。宮部みゆきの作品には、そんな力を信じさせてくれるものがあるのです。

偶然手にした古城が書かれた紙。その世界に入り込むことができると知れば試してみたくもなるでしょう。それも中学生男子としてはもちろん。他の宮部みゆきのファンタジーと同じく、ここでも現実と地続きの異世界が用意されています。
まずは現実世界でのできごとがこと細かに描写され、その後異世界の冒険が始まる。そう思っていました。スクールカーストと称されるような学校内での鬱憤としたものが、異世界で晴らされるのかと思っていました。でも異世界で待っていたのは、余りにもつらい現実の結果に過ぎなかったのです。
なかなか冒険が始まらないなと読み進めていたのですが、状況説明だと思っていた現実世界のできごとこそが主題でした。異世界というファンタジーは現実を描くための手段だったと知った時、世界はひっくり返らずそのまま目の前に突き出されます。その突き出されたものに対して、どのように立ち向かうのか。選択肢が示され、登場人物たちはそこから自分がしたいことを選びます。その選択の意味がわかる時、そして選択自体の意味がわかる時、その時こそ世界はひっくり返ります。そして向こう側にある希望に気付かされるのです。

『はるかな空の東 クリスタライアの伝説』(村山早紀)



20年前に発行された作品です。作者自身による挿絵のタッチも相まって、懐かしい雰囲気に溢れています。この懐かしさは20年前のエンタメ作品を知っている者の感覚でしょう。(20年前でも懐かしい感じがしたのかも知れません。20年前の段階で既にお馴染みとなっている感覚なのかも)しかし20年を経た今になってこの作品が文庫化されたのです。現在の新たな読者の目にはこの物語はどのように写るのでしょうか。
異世界ファンタジーの魅力的な要素がこれでもかと詰め込まれています。善神と邪神の争いの伝説、歌により人々を癒す歌姫、邪神を復活させようとする魔女、囚われの姫と人間世界に避難させられた姫、目覚める秘められた力などなど。それはきっと作者が描きたいことを全て詰め込んだ結果なのではないでしょうか。だからと言って全体が大味になることもなく、広大の世界観の中で行なわれた事件と物語という形がしっかりと見えます。きっとまだ語られていない物語がこの世界にあるのだろうという気にさせられ、物語の終わり以降の広がりを感じます。
その世界観の確実さはは時代を超えるものだから、きっと今の読者の心にも響くものとなるのでしょう。そしてこの文庫化が成功したならば、20〜30年前の様々なファンタジー作品の復刊も期待したりもするのです。

『ビブリア古書堂の事件手帖7 栞子さんと果てない舞台』(三上延)



ビブリア古書堂完結編はシェークスピアの稀覯本ですよ! というところですが、やはりこの最終巻での見所は篠川母娘の対決と栞子さんと大輔の関係の行く末でしょうね。
母娘対決に関しては、実際の舞台設定以上に脳内でエフェクト演出して楽しむものだと思うのです。効果音バンバン背後に竜虎ドドン!そんな感じで楽しんで読んでおりました。
栞子さんと大輔の関係にしても大きな波は前の巻までに済んでいる節がありますが、ここではミステリもの定番のワトソン役の存在意義のようなものも問われています。もちろん謎を解明する上でワトソン役を通すことで読者にわかりやすく開示する役割というのはありますが、それはあくまで「小悦構造」としての役割。物語の中での役割、探偵役の横にいる意義とは別のもの。これに関しても、ここぞという見せ場が用意されているのが心にくいです。
ミステリ的要素に関しては今回は薄めでしょうか。伏線もわかりやすく張られています。しかしその伏線が活かされる場面の見せ方が巧いんですね。なので、ここでこう来たか!という爽快感があります。
古本とミステリを見事に融合させ、しかもキャラクター小説としての魅力もたっぷりだったこのシリーズ。本編は完結といえど、なんやかんやと続く模様。それまたしっかりと楽しみにしましょうかね。

『芸人と俳人』(又吉直樹、堀本裕樹)



俳句は点だと思っていました。五七五の少ない音の中に季語を含めるなど規制も多いので、一点のみを切り取って表わすものだと思っていました。しかし一点は一点でも水に落とす一点の墨滴のように、放たれた瞬間に広がり世界となるものだと知らされました。
芸人又吉直樹が俳人堀本裕樹に俳句について教わる形で進められます。そもそも俳句とは何なのか? 五七五の定型とは? 季語や切字の扱い方など基本から入り、先人の句集を読み、選句、句会、吟行へと繋がっていく。又吉氏が発する疑問が読者の疑問となるので、堀本氏が伝える答がすんなりと受け止められます。そして俳句が少しずつ自分の中に入っていくのを感じることができます。
見た世界や感じた世界を五七五でスパリと切り取りながら、その切り取った周辺の世界をまるごと包括する。それが俳句なのか。制限が多いと感じられたものが、その制限のひとつひとつに世界を広げるための種があったのかと知る度に、頭と心に心地好い刺激がありました。知らない世界を知る面白さがあります。そして知ったからこそ見える世界があることに気付きます。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村

FC2カウンター
ブクログ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
検索フォーム