『海の家のぶたぶた』(矢崎存美)

海の家のぶたぶた (光文社文庫)
海の家のぶたぶた (光文社文庫)

見た目はぶたのぬいぐるみ、中身は中年のおじさん。そんなぶたぶたさんのシリーズ。本によってぶたぶたさんの設定は変わるのですが、今回は海の家の店長さんです。

小学生の頃は夏休みごとに海水浴に行っていたのですが、海の家に入った記憶はないのです。だから外から見ていたイメージでは、浮き輪やボートを貸していたり、ラーメンや焼きそば、かき氷を売っている。そんな感じなのです。
ぶたぶたさんの海の家もそんな昔ながらのものですが、そこはぶたぶたさん。かき氷に思い入れをたっぷりと注ぎ込んでいます。ふわふわ氷に自家製シロップ。フルーツやアイスクリームのトッピングも。口の中ですっと溶ける冷たさ。しっかりと甘いのにくどくない。あーかき氷食べたい!そんな気持ちを盛り上げてくれます。

ぶたぶたさんのシリーズは、悩める人がぶたぶたさんと出会い、ぶたぶたさんの人柄(ぶた柄? ぬいぐるみ柄?)とぶたぶたさんの料理によって癒されていくというのがパターンとなっています。
しかしぶたぶたさんはただの…人(ぶた? ぬいぐるみ?)特殊能力を持っている訳ではないのです。ただ話を聞いてくれる。そこから思うことを伝えてくれる。
悩める人はなかなか他人に思いを伝えられない、他人の声を聞くことができない。だって悩んでいるのだから。余裕がないのだから。でもぶたのぬいぐるみ相手なら話せることもあるのかも。聞くことができるのかも。
今回もバイトを反対された女子高生、引っ越して寂しい男の子、両親の思い出に悩む男性などなど、悩める人がぶたぶたさんに出会います。大丈夫ぶたぶたさんがいるのだもの。そんな風に思わせてくれるのです。
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『という、はなし』(吉田篤弘、フジモトマサル)



フジモトマサル氏による「読書の情景」のイラストに、吉田篤弘氏が文章を綴るという形で連載された絵物語集。
これはあとがきにもあるように一種の謎解きのような感覚もあるでしょう。イラストから喚起されるものが何なのか。思いも寄らない物語が展開されることもあり、その奥行きの広さを堪能します。
それはそのままイラスト自身が持つ奥行きなのでしょう。記号としてそこに描かれているのではなく、世界を切り取ったものだから前後左右の空間に及ばず時間も思いもその中に納められている。だからこそ物語が広がるのでしょう。
各作品どれも2ページ目にイラストがある構成なので、物語に足を突っ込んでからイラストを見ることになります。これが先に真っ白な内にイラストを見てから物語に触れるとまた違った思いを抱くのではないかとも思えたり。何度でもゆったりと味わうことができる。そんな本でした。

『ドクターぶたぶた』(矢崎存美)



ピンクのぶたのぬいぐるみのぶたぶたさん、今回は消化器系内視鏡手術のエキスパートです。ぶたぶたさんのお医者さんだというと小児科だとか過疎地でお年寄り相手にというイメージがありましたが、まさか胃がんの手術に携わるような話になるとは。(過疎地云々はそういう面も物語上出てきますが)
シリーズを追って読んでいる身としては、ぶたぶたさんはぬいぐるみだけどぶたぶたさんというひとりの人物(?)なんですけれど、物語の中でぶたぶたさんと初めて出会う人にとっては怪しげな存在なんですよね。ぬいぐるみだし。しかも話を聞いてもらうだとか、手料理をごちそうになるというような今までの関わり方とは違い、命に関わる手術をそのぬいぐるみに託せるかどうかとなると話は変わってくるでしょう。そんな一面もしっかりと描写されています。
それは自分の努力などではどうしようもないことを理由に他人から拒絶されることと思えば、誰にでも当てはまる話なんですよね。そこをぶたぶたさんは仕方がないことと割り切っているように見えます。しかしそれは物語上の語り手がぶたぶたさんをみて思うこと。ぶたぶたさんの心中は語られないので、そこの葛藤は想像するしかないのですが、そんな部分が垣間見られたことでよりぶたぶたさんの魅力が増すのが、ぶたぶたさんの素敵なことなんでしょうね。

『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)



タイトルから説教臭さを感じるかもしれません。元々1935年から刊行された『日本少国民文庫』の倫理をまかなうものとして書かれたものなので、もちろんそういう部分も多々あります。しかし実際に読んでみるとそれよりも物語の面白さに引き込まれます。
主人公コペル君の日々の生活とそこから生じる疑問や問題。それに対して叔父さんが科学的知識や歴史事項や自らの経験を踏まえての意見を返す。その叔父さんの意見がコペル君の体験に基づいているからこそ、教科書的ではない言葉として届きます。また科学や歴史の知識というのは実践的に己の体験に則して見ることで血肉となることも併せて感じさせられます。
何よりコペル君と級友たちの友情がいいんですね。はじめちょっと変わったやつと思っていたのが、経験を通じて相手のことを知り友情を育むことになる。80年近く前の作品なのに面白く読ませるのは、そんな友達関係の素敵さが変わらないからでしょうか。戦後一変した社会情勢に合わせて言葉や文章の変更が為されたとのことですが、この文庫化の際にまた元の形に戻されたそうです。きっと社会情勢や風俗は変われど変わらぬものがあることを示すためにも、その方がいいのでしょう。もちろんそこに現代的感覚と思想を付け加えて己のものにする必要はあるでしょうが。

『学校のぶたぶた』(矢崎存美)



今回のぶたぶたさんはスクールカウンセラーです。これはもう何というか天職ですよね。
ぶたぶたさんは見た目がぶたのぬいぐるみだけど、中身は普通の中年おじさんなんですよね。特殊な能力とか魔法とかある訳でない。でも、ぶたぶたさんは話をしっかりと聞いて受け止めて自分の考えを返してくれるのです。これはこれまでのシリーズでもそうでした。だから悩みをもった人がぶたぶたさんと出逢うことで、自分の中にある問題の解決に気付くというのが多かったのだと思います。
もちろん中学生の悩みは本人のみでどうしようもない部分も大きいのですが、ここにもうひとつのぶたぶたさんの特徴である仕事に対して真面目で確実に取り組むという部分が大きく関わり、しっかりとサポートしてくれる。うん、正にカウンセラーにこれほどまでに適任の人物(ぬいぐるみだけど)はいないでしょうね。そしてここ最近はぶたぶたさんがいなくても成立するような話が多かったのですが(ぶたぶたさんが聞き役に徹しているので)今回はしっかりとぶたぶたさんが物語の中心にいてくれる嬉しさもありました。当たり前だけどこのシリーズはぶたぶたさんがいてこそなのですから。また昔のようなぶたぶたさん自身のお話も読んでみたいですね。
プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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