『怪物はささやく』(パトリック・ネス、シヴォーン・ダウト・原案、池田真紀子・訳)



前々から気になっていた作品。読もう読みたいと思いつつも、読めばきっと打ちのめされると思い躊躇していました。また読んでしまうのが勿体なくも思っていました。思い切って読んでみるとやはり打ちのめされました。しかしそれはとても素敵な読書体験だったのです。自分の中で大切な一冊となりました。

13歳の少年コナーは母親とふたり暮らし。母親は病に冒され、そのことを学校で広めてしまった幼馴染みの少女とは折合いが悪くなり、周りのみんなからは腫れ物を触るように扱われ、いじめっ子グループに目を付けられ暴力を受ける。そんなコナーの元に夜中に現れた怪物。怪物はコナーが望んだからやって来たと言う。そしてこれから三つの物語を語り、そのあとコナー自身に四つ目の真実の物語を語るように言うのだった。
母親の入院のため祖母の家に行くことになるが、祖母とは元々馬が合わず、やって来た父親も自分を助けてくれない。そんな暗鬱な思いに満ちていく様子が、キリキリと締め付けるように描写されます。コナーの視点で書かれる物語ですが、そこから読み手が第三者的に見ることにより、コナーが築く壁が見えてきます。世界中の全てが敵になったような、世界中の全ての不幸を背負ったような気分になっているコナー。だからこそコナーは誰にも打ち明けられない思いを胸に秘めます。怪物はそれを語れと言う。そして胸に秘めたその思いも真実ならば、もうひとつの語られぬ思いも真実であると。矛盾するふたつの思いはひとりの人間の中で同居し得るものだと告げます。不幸に立ち向かうということは、我慢することでも無理矢理乗り越えようとすることでもない。まずは自分の思いに真っ正面から向かい合うこと。真実を語ること。
最後に母親に告げた真実の言葉。それによりコナーの心は解放されたのでしょう。それこそが救いであり、不幸に対抗する唯一の武器。読み手を締め付けていたものも消え去り、浄化されたような読後感が残ります。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市住吉区遠里小野5−3−1




にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村

FC2カウンター
ブクログ
カテゴリ
リンク
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
検索フォーム