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『過ぎ去りし王国の城』(宮部みゆき)



宮部みゆきは逃げません。世に満ちる悪意から暴力から、人の持つ厭な部分から、どうしようもない悲劇から。だから読むとしんどい思いもします。ああ、その箱を開けるのか、その思いを開陳するのかと。
しかしただ露悪的に悪意を書き綴っているのではありません。打ちのめされるけれど、それがこの作品の目的ではありません。芯の部分には優しさがあります。だからつらいだけではない読後感があります。どうしようもないつらさの向こうにある希望を見せてくれます。それは作者自身の願いかも知れません。そしてつらさを書きながら希望を感じさせることは、物語が持つ力なのでしょう。宮部みゆきの作品には、そんな力を信じさせてくれるものがあるのです。

偶然手にした古城が書かれた紙。その世界に入り込むことができると知れば試してみたくもなるでしょう。それも中学生男子としてはもちろん。他の宮部みゆきのファンタジーと同じく、ここでも現実と地続きの異世界が用意されています。
まずは現実世界でのできごとがこと細かに描写され、その後異世界の冒険が始まる。そう思っていました。スクールカーストと称されるような学校内での鬱憤としたものが、異世界で晴らされるのかと思っていました。でも異世界で待っていたのは、余りにもつらい現実の結果に過ぎなかったのです。
なかなか冒険が始まらないなと読み進めていたのですが、状況説明だと思っていた現実世界のできごとこそが主題でした。異世界というファンタジーは現実を描くための手段だったと知った時、世界はひっくり返らずそのまま目の前に突き出されます。その突き出されたものに対して、どのように立ち向かうのか。選択肢が示され、登場人物たちはそこから自分がしたいことを選びます。その選択の意味がわかる時、そして選択自体の意味がわかる時、その時こそ世界はひっくり返ります。そして向こう側にある希望に気付かされるのです。
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大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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