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『狩人の悪夢』(有栖川有栖)



人気ホラー作家白布施に誘われ、そこで眠ると必ず悪夢を見るという部屋のある「夢守荘」に泊まることとなったアリス。その翌日、白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」で右手首が切断された女性の死体が発見されるのだった。

作中で探偵役の火村がこの事件のことを「散らかっている」と称するように、様々な要素が次々と出てきます。突飛な凶器、壁に残された血糊の手形、被害者につきまとうストーカー、被害者と繋がりのあった今は亡きアシスタントの過去、もうひとつの死体とそこに残されたものなどなど。それらを元に組み立てられる推理の流れは、ひとつの流れが複数に分かれそれぞれがそれぞれの動きをしながらまた合流するような散らかり具合があります。
あとがきで元々この作品を倒叙もののスタイルで書こうとしていたとあるのですが、この散らかった流れは犯人側から描写されると慌てふためく様子を含めて面白そうな気もします。最後の火村の推理の流れの突飛さと着地点の美しさは倒叙の形でも活かせるような気もします。一度成立させた推理をある時点で捨て、それを後からもう一度本流に戻すことで活かすというやり方はその最たるものかも知れません。推理を披露する場面ではそういう倒叙ものが持つ緊張感があったような気もします。しかしそうなると犯人の動きに限定され、それ以外の部分の膨らみがなくなってしまうのでしょうか。もしかすると倒叙ものの楽しみも併せて楽しむものになっているのかも知れません。
僕にとって有栖川有栖は本格ミステリの教科書のような存在なのです。「本格ミステリとはなにか?」という問いに対する答が「有栖川有栖の作品」なのです。それはトリックや動機の奇抜さではなく、推理の流れの美しさなのです。その意味で今作では本格ミステリの本流の魅力を再認識させられました。
またアリスと火村の関係性が改めて書かれているというか、火村の抱える悪夢に対してアリスが一歩踏み込むシーンに少し驚かされました。これはあの「ドラマ化」の影響なのでしょうかね。何にせよミステリ部分以外も楽しめた作品でした。

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大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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