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『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』(伊藤氏貴)



中勘助の『銀の匙』を中学3年間掛けて読み解く授業を、灘中学校で行なわれていたという話は聞いていました。しかしどのような形で授業が展開されているのか、全く想像もつかなかったのです。ここではその伝説の授業の一部始終を、授業を執り行なった橋本武先生(エチ先生)の生い立ちから丁寧にまとめられていました。
まず驚いたのは『銀の匙』を用いた授業というものがまだ若いエチ先生による起案であったということです。学校を上げてのプログラムだと思っていましたが、一教師のアイデアから始まっていたことに驚き、それを行なうことのできた灘校の自由な校風というものに感心しました。
ただ単に『銀の匙』を読み込んでいくだけに留まらず、そこに書かれていることから想起して横道に逸れる。それは語句の意味からの広がりであり、文中に現れる事柄を実際に体験することでもある。国語を学ぶ力の背骨だと言うエチ先生の言葉のように、国語という教科はその教科の範囲を超えて影響していく。人が生きるための力が国語によって養われるのだろう。横道こそが王道となるのである。
人は思考する時、他者の話を聞く時、自らの意見を発する時、どの時にも文章によってそれを成している。文章を理解し組み立てる力こそが生きる力となるのだろう。実際にエチ先生の授業を受けた人たちのその後に焦点を当て、取材をすることによってそのことを証明している。それは単に東大に合格した社会に於いて重要な地位に就いたというだけでなく、人として考え行動する根本となる力をエチ先生の授業で得たことが語られている。
インターネットの普及に伴って、人は調べること考えることが不得手になっていると感じています。答をポンと与えられること、それは調べることにも考えることでもない。自ら調べ考えまとめる。そんな力を得るにはどうすればいいのか。この本にはそのことを考えさせられるものが、たくさん詰まっていました。これを読んでこんな授業受けられたらよかったのになと羨んで終わるのでなく、これから進む一歩の指針となるような本でした。
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大吉

Author:大吉
物語の魅力を伝える古本屋をやっています。

好きな作家は、有栖川有栖、田中芳樹、江戸川乱歩、倉知淳、恩田陸、北村薫、宮部みゆき、京極夏彦、小川洋子、殊能将之、梨木香歩、泡坂妻夫、東川篤哉、綾辻行人、長野まゆみ、大崎梢、恒川光太郎、吉田篤弘、上橋菜穂子、岡田淳、R・ダール、E・ケストナー、などなど。気になりゃ何でも読みます。

子どもたちに物語の面白さを伝える、そんな駄菓子屋のような古本屋を目指します。

「古本 大吉堂」大阪市阿倍野区王子町3−4−4




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